目的……自然保護を有効に推進する社会的な勢力の形成にある。その勢力とは「愛と科学をもって、あるいは冷静かつ合理的な利害計算をもって生物多様性に対処する非宗教的な勢力と、神による創造を信じるキリスト教的な宗教世界に暮らしつつ、神に想像された自然の世話(スチュワードシップ)を信徒の務めと了解する宗教者たち」である。
生物学者である著者が、架空の牧師(パストール)に語りかける手紙の形式をとっている。
科学者とキリスト教者は異なる世界観の中で生きているが、われわれの地球と生命多様性を保全する、という点では合意できるはずだ。牧師に対して、著者は生物学の歩みと、それが宗教に反するものではないことを呼びかける。
人間は新石器時代以降、生態系を激変させてきた。このため多くの生物が絶滅に追いやられ、今、自分たちの首を絞めようとしている。著者は生物の多様性を尊重するが、すべてを無条件に繁殖させろ、とは言わない。昆虫を絶滅させることは、人類の滅亡のみならず地球の不毛につながる。しかし、人間にのみ寄生するシラミや、一部の害虫(蚊等)は、研究のための遺伝子を保存してあとは絶滅させてよい、と述べている。
人間の手の入った自然と本来の自然とは明らかに生物多様性が異なる。われわれは神、もしくは大自然から与えられた生態系を観察しなければならない。
――生命圏の均質化は悲惨なものであり、それは私たちヒトという種にとっても大きなコストを伴います。未来はますますその方向へ進んでいます。それを食い止めたいというのなら、生物多様性について、またその至上の自然資源にいったい何が起こっているのか、もっと学ばなければなりません。
生態圏のかく乱は、人間活動に次いで、外来種の侵入が主な原因である。
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絶滅寸前の種を復活させる試みはこれまで何度も成功してきた。人間の保全活動は必ず結果を出すことができるという。
生物学的な知識……生物多様性は地球上に均一に散らばっているのではなく、マダガスカルや熱帯雨林、サバンナ等、ホットスポットと呼ばれる一部の地域に集中している。
生物学の2つの原則……「生命に関する既知のすべての特性は、物理学と化学の法則性に従う」、「すべての生物学的なプロセス、ならびに種を区別するすべての特性は、自然選択によって進化する」。
生物学は発展途上にある分野であり、特に分類学、種の特定についてはいまだ開拓されていない。
――人間は誰しも、その体を構成する細胞よりも多数の細菌を抱えているのですから。
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数学嫌いについて……
――数学嫌いを決め込む人びとは勘違いをしています。数学は言語の一種にすぎません。その言語は思考の習慣の一つに過ぎません。中国の漢字も、数学的な議論も、訓練していない人には同様に神秘的なものなのでしょう。しかし、まったく同様に、人生の早期に学んでしまった人びとには当たり前のものなのです。……
ナチュラリストを育てるには子供の頃から動植物探検や動物園、博物館に連れていき、バードウォッチングに参加させ、子供たち同士で探検や外国へ冒険をさせればよい。
まとめ……創造説やID説を信じる宗教家と、進化論を主張する科学者の思考は相いれない。ではどうすればいいのかといえば、相違点を忘れればいいのである。
――パストールも私も、同じ程度に倫理的であり、郷土を愛するものであり、そして利他的なはず。私たちはともに、宗教と、化学に基礎をおく啓蒙主義を根とする共通の文明の産物だからです。
化学と宗教が連携し、市民が科学と自然に関心を持ち、生物多様性を尊重する文明をつくろうと著者は主張する。
- 作者: エドワード・O.ウィルソン,岸由二
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2010/04/22
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