比較政治学において、政治体制を理解するための単語である「スルタニスム」(スルタン主義体制)を考える。
スルタニスムとは……元はヴェーバーが統治の類型を考える上で「スルタン制」を考案し、後に本書の著者であるリンスが発展させた。
イスラーム世界の君主号「スルタン」に由来する。忠誠やイデオロギー、カリスマ性ではなく、恐怖と報酬だけを基盤とする個人的支配をいう。
支配者は自分の恣意によって無制限の権力を行使し、いかなる価値体系にも依存しない。社会制度は支配者の恣意によって左右されるため、行政は全般的に腐敗する。
このような体制におけるエリートは通常、支配者の家族、友人、暴力や武力を持つ者である。
支配者はいかなる階級や利益も代表しない。
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スルタン主義体制の特徴が列挙されていく。
小国において生まれる。
ある程度の輸送及び通信技術が発達していなければならない。
大国、主にアメリカの影響下にあり、またその庇護を受けている。天然資源等、独占の生じやすい経済構造を持つ。
指導者の共通項としては、異端、または社会階層の低い生まれが多い点があげられる。かれらは機会に乗じて出世し、道徳意識は腐敗している。
カリブ海、中米、アフリカにおいてのみ、スルタン主義体制国家が生まれた。それらは権威主義体制からの移行、または、民主主義の腐敗によってスルタン主義的傾向を帯びるようになった。
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各国のスルタニズム
トルヒーヨ(ドミニカ共和国)
彼は下級軍人からクーデタを経て国家元首となり、国家の独立を保持することで支持を得た。
近代化を成し遂げたことが、彼の個人支配を可能にした。アメリカの後ろ盾が体制を安定させていたが、革命によってスルタン主義は崩れた。
ソモサ(ニカラグア)
アメリカの支援によって個人支配が確立した。
デュヴァリエ(ハイチ)
デュヴァリエ父子は、それぞれ秘密警察を活用し、支配した。
パフラヴィ朝(イラン)
著者によれば、イランには法の支配というものがなく、ただ支配者の恣意だけが存在していた。
マルコス(フィリピン)
抗日戦争の英雄から、国家の汚職をけん引する存在となった。特産物ごとに独占者が生まれ、その頂上で資産を蓄えるのがマルコス一家だった。
- 作者: H. E. Chehabi,Juan J. Linz
- 出版社/メーカー: Johns Hopkins Univ Pr
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