うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『アラブ人とユダヤ人』シプラー

 目的……「アラブ人とユダヤ人が互いに抱き合っている感情やイメージ、先入観を点検し、彼らの敵意の根にあるものや、イスラエルの支配下で両者がまじりあって暮らす小さな土地での相互作用を、じっくり見ることにある」。

 イスラエルでの生活や社会について知ることができる。90年に出た本なのでその後の経緯も考える必要がある。

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 アラブ人とユダヤ人の子供の、戦争観の違いについて。

 アラブ人の子供は「敵をやっつけられれば戦争をしてもいい」と答えたが、ユダヤ人の子供は「戦争は勝てば正しい」と答えた。アラブ人は理想主義的でロマンチックであり、ユダヤ人が現実主義的だった。どちらの子供も愛国心が強く、戦争は不可欠であると考え、不安にさいなまれていた。

 独立戦争に関するタブー……イスラエル国内では、アラブ人たちは自発的に亡命したことになっている。そのため、難民の帰国を禁じるのは自然なことである、というのが一般的な見解である。ユダヤ人、イスラエル軍が、アラブ人を追放したという事実はないとされている。いわく、アラブ人は自主的に逃げ出したが、近隣のアラブ諸国はかれらを受け入れなかった。

 ――イスラエルでは、ほとんどだれもが戦争というものを知っている。……この国の短い歴史の中で、どの内閣にもかつての戦士や人を殺害した人間が入っている。そしてそれ故、イスラエルの姿勢には、夢想に対しては断固としてのぞむという冷徹な英知が一貫してはたらいている。

 ユダヤ人たちはパレスチナ民族主義を正統なものとして認めてこなかった。

 イスラエル西岸地区に住むキリスト教徒のほとんどはアラブ人である。

 ――……そのこと自体が、基本的に中東の重要な特質を物語っていた。テロは気のふれた人間がしでかす、異常な行為ではない。眼の前にある社会を特徴づける文化として欠かせない部分であり、社会の本流から激励なり支持なり承認なりを得ていて、それがテロリストの判断基準になっている。

 ユダヤ教正統派学者ハルトマンは言う、宗教はユートピアを求める空想の源泉であり、もともと非寛容的なものである。聖書のどこを読んでも、寛容の精神は見つからないだろう。

 入植者には熱心なユダヤ教徒シオニストが多く、中には西部劇に出てくるような無法者も混じっていた。

 シャロンの入植者についてのことば……「国の安全を保障するのは、まず第1にやる気だ――ある場所を守ろうとする熱意なのだ。人がある場所に住んでいれば、自分たちを守ろうとする気持ちが生まれるし、国も彼らを守ろうとする気になる」。

 ――イスラエル当局の支配下にあるパレスチナ・アラブ人には、道義とは何かを哲学の面から模索しているダヴィド・ハルトマンのような人間はいない。……おそらく、かれらの文化があまり内省的ではないからだろう、かれらがイスラエルに支配されていてほとんど無力な状態で暮らしているからだろう、かれらの議論は多くの場合政治や戦術が優先する。さらにかれらのなかで意見の違いがあっても暗殺によって解消されることが多く、ことさらに論ずるのは許さない気風がある。

 ユダヤ人、アラブ人、難民キャンプで行われている宗教と政治の教育について。

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 ユダヤ人、アラブ人双方の側で、「乱暴で臆病な敵」というイメージの植えつけがおこなわれている。生活のうえで相手と接している場合、この浸透度合いは変わってくる。調査によれば、ユダヤ人に対してもっとも強く敵意を抱いているのはネゲブ砂漠のベドウィンだという。これは、軍事施設によって野営地を追い出されたためである。

 イスラエル軍は練度が高いと評判だが、同時に体裁や見てくれを気にしないことでも有名である。

 ――はじめは、ろくに規律もない連中が――われわれとは規律の中身が違うにしても――どうしておれたちに勝てるもんか、と思う。そのうち、規律とか敬礼とか靴をぴかぴかにするなんて、どうでもいいことだと考えるようになります。いまじゃ、わたしたちはいつだってアラブ軍のことをからかってます。あれは見せ物やパレードがよく似合う、とね。……ヨルダン軍でもシリア軍でも見てごらんなさい。パレードは、そりゃあ上手ですから。みんな陸軍記念日を祝います。軍の勝利を祝います。そのうち疑問がわいてきます。何の勝利だろう。勝利なんて見たこともないんです。

 

 ユダヤ人、アラブ人、セファルディたちの間で、複雑な人種偏見が存在する。

 ――ともかく、イスラエルでもよその国同様、人種偏見は社会経済面での下層階級に強いことが多い。

 寛容についてのだれかのことば……「わたしたちがやろうとしているのは、わたしたちとは違う人たち、わたしたちのようにはなりたがらない人たち、わたしたちもそうはなりたくないとおもっている人たちに対しても敬意の気持ちを忘れないように教えることだとおもいます」。

 反ユダヤ主義は欧州、ロシア、アメリカのプロテスタント社会から、パレスチナへ輸入された。しかし、ある人によればレバノン反ユダヤ主義の方が露骨だったという。反ユダヤ感情をいだく者はイスラム教徒に限らず、キリスト教徒も差別的なジョークを言った。

 ホロコーストユダヤ人の存在理由として、または、アラブ人によるユダヤ人批判のために、度々持ちだされる。

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 ユダヤ人とアラブ人のあいだには人種上のつながりはない。しかし、「文化と宗教にかかわる伝統の面で豊かな歴史上の類似性がある」。

 ユダヤ教イスラム教の類似点……口承による宗教戒律の体系であり、日常生活について細かく規定する掟がある。その根幹はユダヤ教では法(ハラカー)、イスラム教では聖法(シャリーア)と呼ばれる。食に関する規定はユダヤ教のほうが厳しい。

 アラブ人とユダヤ人の文化は歴史的に相互作用を与えてきた。

 ベドウィンについて……「砂漠では個人としても部族としても弱みを見せてはならず、わが身を守るには見るからに強くなければならない、というわけだ。したがって、報復が一種の抑止力になる」、「法の力などあてにならず、警察の力も及ばず、電話すればパトカーを2台よこしてくれるような軍隊もない」。

 

 イスラエルの秘密警察はアラブ人の海外渡航にも目を光らせている。

 ――エリアスはいつも「おだやかな」取調官だったが、もっと容赦のない役割は、ガマルが化け物というあだ名をつけたばかでかくて醜い、いかにも強そうな男が受け持った。「こいつは2メートルもあろうかという、筋肉隆々の男でした――ちょうど映画なんかで見かけるような奴です」。

 イスラエル秘密警察シンベートの主要な手段は捜査と尋問であり、アラブ人の大半が理不尽な暴力を受けた経験を持っている。

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 イスラエルでは異なる宗教同士の結婚は認めておらず、片方が改宗するか、外国で結婚しなければならない。イスラム教徒とユダヤ教徒が結婚した場合、たいていは双方の社会からは排除される。異宗教同士の結婚には強い意志が要求される。それでもなお、子供をどのように育てるか、どう社会に適応させるかという問題は残る。

 ユダヤ人とアラブ人の相互理解を促すような、子供たちのための実習プログラムは、本国に置いても昔から行われてきた。 

アラブ人とユダヤ人―「約束の地」はだれのものか

アラブ人とユダヤ人―「約束の地」はだれのものか