うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『戦争請負会社』P・W・シンガー

 民間軍事会社について解説する有名な本。戦争の歴史を古代からたどることで、戦争と私企業との長い関係を明らかにする。

 メモを見直して気付いたこと……本書に登場する「エグゼクティブ・アウトカムズ社」はダイヤモンド紛争を題材にした映画「ブラッド・ダイヤモンド」にも登場する。また、MPRI社の取締役カール・ブオノは、シュワルツコフ大将の自伝に上官として登場しており、大変有能だが、長時間勤務が特徴的な人物だったようだ。 

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 「(冷戦崩壊以来)戦争が国家の独占事業でなくなった」、つまり常備軍国民国家というものが変質しつつある。テロリスト、民間軍事会社ともに「国家の主権と無関係に戦争を実行する」。


 イラクと民営軍事請負業の関係:イラク戦争開戦時、民間の参戦連合の数はアメリカ軍以外の全軍に匹敵していた。占領後はさらに大きな役割を果たしたから、「端的に言えば、イラクの作戦は、民間の軍事支援がなければ維持できなかったのである」。

 また民間軍事産業は法的規定も不明確でアブグレイブ刑務所の拷問に参加した社員はひとりもお咎めを受けなかった。

 

 本書は利益動機が戦争に混入するにあたって生まれる三つの問題を論ずる。第一に、利潤に向かう請負業が常に顧客の利益や大衆の幸福に沿うわけではないこと。水増し請求などがそうだ。国軍の統制の外にある民間軍がうまくいかなかった場合どうするかという問題。

「第二に、民間軍事市場は地球規模に広がってはいるが、有効な規制がなされていない。つまり、広い範囲にわたる軍事能力が国家の支配を受けず誰でも手に入れられる」。

「最後に、民間軍事という手段を用いて、公的な政策目的を追求するという事柄があることを述べた。これは政府に、一般的には法的にも大衆からも承認が得られないであろう行動を実行に移すのを許すことになる」。

 

 民営軍事産業の成長は驚異的である。ひとつの小さな会社がバルカン半島の軍事的均衡を左右する。これまで軍事請負業は「傭兵」という形のものばかりが取り上げられてきた。「企業の多くは合法、非合法のデリケートな線の上を歩いて」いて、雇用者にも暗い過去(元テロリストなど)が多いから、公にされるのを嫌う。

 

 第一章 戦争民営化の時代か?

 シエラレオネにおいて首都に迫った反乱軍を追い返したのは政府に雇われたエグゼクティブ・アウトカムズ社だった。旧ユーゴにおいてクロアチア軍がセルビア軍を圧倒したのはMPRI社だった。その後のコソボ空爆の後始末のとき、米軍はブラウン&ルート・サービシズ社を用いた。

 軍隊というものは長年「公の仕事」であることが当然と考えられてきた。

国民国家以来軍事業務は公的分野の支配下にある政治の領域に閉じ込められてきた」。

 そこに登場したのがPMF(Privatized Military Firm)つまり民間軍事請負企業である。そこには戦闘作戦、戦略計画、情報収集、危険評価、作戦支援、教練、習熟した技能などが含まれる。さらにこの分野はグローバル化している。

「いくつかの紛争ではきわめて重要な実践遂行者であり、しばしば、勝敗を決定する要因となっている」。

 また、企業を利用する顧客は独裁者、麻薬カルテルから多国籍企業、NGOまで幅広い。

 黎明期、特にイギリスとオーストラリアは政府軍の積極的な民営化をはじめた(「兵站の外注化」)。もっとも高い金を払って民営軍事請負業を使っているのはアメリカである。

「安全保障の提供は政府の最も重要な機能と長く認識されてきた。二十世紀のはじめには、暴力手段の国家支配は何世紀にもわたるプロセスを経て制度として確立していた。しかし、国家権力による独占は、発展には長くかかったが、短命だった」。

 貿易や財政と同じように軍事業務においても国家は特権を剥奪されつつある。

 

 第二章 軍事民営化の歴史

「自己の闘いを戦わせるために部外者を雇うという行為は戦争そのものと同じくらい古くからある」。

 あらゆる歴史上の戦争には外国人兵士が傘下していた。「傭兵」が代表的なものだが、それらの最終目標は私的な利益だった。民営という視点から戦争を調べると、あらゆる戦争の参加者は私的利益を目的としている。むしろ国家による正規軍というのが歴史上の例外である。

 古代……歴史における軍事集団の組織化は金銭に基づくものである。クセノフォン『アナバシス』にも傭兵の物語がある。カルタゴ帝国は第一次ポエニ戦争の終わり頃、傭兵への給料未払いから反乱が起った(傭兵戦争)。ローマは市民軍を用いたのは初期だけで、やがて「帝国軍隊はローマというよりゲルマン的になっていた。それに続いたビザンチン帝国もまた外国人の軍事専門家に頼って戦争をした」。

 中世になると金銭経済は衰微し、「君主と家来との重層的義務のシステムである封建制度が、軍隊を創設するメカニズムとなった」。ここでは石弓職人などの傭兵が活躍した。13~14世紀には経済の興隆とともに契約軍団が復活し、戦乱が絶えることなかった。

 戦争の長期化によって中央支配が弱まると、給料をもらえなかったり、放置される私兵が増えた。彼らは仲間「カンパニー」(コン・パーヌ、成員が受け取るパンを意味する)を組織し、「フリー・カンパニー(傭兵団)」となった。この存在は封建主義への挑戦でもあった。

「傭兵団はまた、意図的に自分たちの獰猛さと残酷さを物語にして広め、思慮に富んだマーケティング戦略を展開した」。

 実際には、彼らは戦闘になると加減した。捕虜を捕まえれば、身代金が手に入るからだ。

 百年戦争では横暴な傭兵団をフランス王が一掃しようとしたが、ブリネのたたかい(1362)において正規軍は連合傭兵団に壊滅させられる。

 有名な傭兵団は、一万人を擁する「大仲間軍団」、英国人の「白衣団」、「大カタロニア団」など。スイスのパイク・スクェア(長槍歩兵密集体形)。スイス人傭兵団の勃興。その猿真似軍団ランツクネヒト。だが商売本位で柔軟なランツクネヒトがついに最強の座を勝ち取る。

 17世紀以降の、戦争権益の拡大……国家の帝国にたいする勝利。国民戦争の最終的な曲がり角はナポレオン戦争である。また東インド会社などの私的勅許会社は「それ自体が軍隊であるかのように振舞いだした」。

「私的勅許会社が国家のような体裁を持つことは珍しくなかった」。

 東インド会社は傭兵軍を雇い、現地人を兵として雇い、艦船を所有した。これらが活躍したのは「ヨーロッパ式の国家制度の確立した秩序の外」だった。これら英、仏、オランダの東インド会社の場合軍事行動が利益に直結した。

 

 20世紀には個人の軍人が植民地独立運動などに協力した。

「傭兵商売はもはや市場の主役ではないが、現在も立派に存在する」。

 傭兵の需要は量より質が重視されるときに高まる。また敗北・闘争軍人の復員と弱小国家地域での戦争には大きな関係がある。また統治能力のない国家においては私兵軍団が権力を握る。

 国家による暴力の独占というのは、恒久的な事実ではない。

 

 第三章 民営軍事請負業を見分ける

 「一般的な心理では、「傭兵」になるということには、先天的に冷酷無慈悲な性格で忠誠心に欠けているという含みがある」。

 戦争大義とは別の利益動機が傭兵の特徴である。だが傭兵の組織はその場限りであり、最小限度のことしか命令できない。

「実は、傭兵が紛争にかかわる現在の頻度は二十世紀のどの時期よりも高く、規模と浸透性において匹敵するのは一九六〇年代の植民地独立期だけである」。

 傭兵に代わって登場したのが民営軍事請負業だ。まず大きな違いは軍事業務を「法人企業化」したという点である。重要なのは商社の利益である。物品を売るのでなく戦争全般にかかわるサービスを売る。募集も公開的である(闇稼業ではない)。

 

 第四章 なぜ安全保障が民営化されたか?

 民営軍事請負業の隆盛の理由は次のとおり。冷戦終結後に空いた安全保障の穴を埋めるために生まれたとスパイサー大佐は言う。超大国が保持していた安全保障のバランスが崩れ、内戦や紛争が多発した。つまり冷戦の終結は紛争抑止力を失うことだった。

 「無国家」組織の台頭。そして国際市場の発展、民営化の流れ。

 また冷戦終結により大量の軍人が職にあぶれた。

「職を失ったのは兵卒だけではなかった。推定によれば、旧KGBの七割近くが軍事請負業に入った」。

 軍人の失業に併せて、価格の安い歩兵兵器が拡散した。

 国家による統制力の衰退がすべての根底にはある。

「これらの破産国は不安定と無法と民族的および宗教的紛擾の繁殖地であると同時に、テロリストや犯罪者の頭目たちの避難場所でもある」。

 この、国家主権と自治の衰退は、近代国家の進んだ道の逆行である。

 国家の軍隊維持能力がお粗末なため(飛行機があっても飛ばせない)、PMFに依存することになる。アフリカではエイズが兵力を削ぐ最大の要因である。他国への軍事介入の意欲減退もまたPMFの温床である。

 軍事行動の変貌……多角化、技術化、文民化、犯罪化。非国家組織、小さな組織が高強度軍事作戦においては力を発揮する。


 第五章 世界に広がる軍事請負業

 「たとえばアーマーグループのような企業は「民間警備保障企業」という合法的響きの強い呼称を用い、軍事分野の外にあると称している。……しかしながら、彼らは、町のショッピング・モールで働くガードマンとはまったく違う」。

 PMFの多くはヴァーチャル企業である。

「構造がバーチャルであるという性格は短期間に大もうけして消えてしまうこともできるということである。会社は即座に解散し、必要が生じたときにはいつでも再組織することができる」。

「軍事業務の典型的な従業員は、その業務と同じくグローバルな広がりを持ち変化に富んでいる」。

 世界中、ジャングルの戦闘員から事務処理専門まであるが、共通するのが元兵士だということだ。軍隊の給与、職業的声望が下落すると、退役者の民間への移行が活発になるのだ。

 世界の危険地域にある資源を回収しようとする多国籍企業の増加とともに、PMFの需要も増大する。地雷除去やNGOの支援など「人道」をうたうPMFも存在する。

 

 第六章 民間軍事請負業務の分類

 軍事役務提供企業、これは「戦域の最前線で、実際の戦闘にたずさわる業務を提供し、戦闘部隊や専門家として、あるいはまた野戦部隊の直接指揮や統制に任ずる」。エグゼクティブ・アウトカムズ社、サンドライン社、SCI社、NFD社など。また遠隔偵察や航空部隊貸し出しなど軍事的特殊技能を満たす企業も含む。アドバンテージ・クラウン社、ケリー・クラーク社など。

 依頼主は軍事力が低く、緊急の脅威に直面していることがおおい。またこの業種は大衆の否定的な注目を浴びやすい。

「軍事コンサルタント企業とは、依頼主の軍隊の作戦や再編に必要な助言や訓練を提供する」。

 戦略的分析、作戦上の分析、組織上の分析を行い、「直接的な戦闘」をすることはない。レブダン社、ヴィネル社、MPRI社など。

「軍事支援企業の仕事には、兵站、情報収集、技術支援、補給、輸送など、殺傷行為を含まない助力や補助がある」。

 二次的な仕事を専門とするが、規模や収入は最大である。傭兵とはもっとも遠い。軍事支援企業は伝統的な多国籍企業のようなものであることが多い。ロンコ社、BRS社、ボーイング・サービシズ社、ホームズ社、ナーバー社など。

 エグゼクティブ・アウトカムズ社について。

「創立者たちのアパルトヘイト時代の後ろ暗い過去から、巧みな企業広告まで、同社は、法人組織の軍隊という現象全体の象徴になったと言っても言い過ぎではない」。

 戦闘実行部門のなかでは最も有名だったが、一九九九年に解散した。在籍スタッフは皆他の会社に流れた。軍隊貸し出し業の起源である。

 

 MPRI社の現社長はカール・ブオノ、湾岸戦争時の陸軍参謀総長である。社員はすべて退役米国軍人で構成されていて、本国政府とも親密である。

「MPRI社の活動は、軍事業務の民営化がどれほど政府の利益となってきたかを如実に示している。民間企業は、米国軍の兵士が正式にはかかわれないところに出かけることができたうえ、米国の外交政策目標を推進することに成功した」。

 軍事支援企業BRS社は前二社など及びもつかぬ大企業で、その親会社は建設とエネルギー関係を扱うハリバートン社である。

 

 第十章 請負契約のジレンマ

 まず、請負業者と依頼主の利害が一致しないこと。

 ――最も罪深い主張の一つは、ある企業が紛争の敵味方双方に通じて仕事をし、自社の商業的利益を確保しているというものだ。ライフガード社はシエラレオネの反乱軍に武器を供給したとされる。同時に、鉱山会社数社に雇われ、その事業を反乱軍の攻撃から守る仕事を請け負っていた。ライフガード社は、戦乱地域で邪魔されずに採掘が続けられるよう代償を用意しただけだと主張した。ライフガード社は、サンドライン社と兄弟会社であり、サンドライン社は政府に雇われ、反乱分子の掃討をやっていた。同様に、スカイ・エアカーゴ社は、サンドライン社の契約の一部としてシエラレオネ政府に空からの物資の供給を行っていたが、反乱軍側にも兵器を供給していたことが報道されている」。

 

 民営軍事請負業に依存しすぎて、「事後の値上げ要求」に陥ること。

 ――最大のジレンマは業務中のPMFが撤退あるいは戦線離脱を決めた場合、企業とその従業員を持ち場に留まるよう強制することが法的に不可能なことだ。

 実際に軍事力をもった軍事役務提供企業を統制できるかという問題は、マキャベリが既に述べている……

 ――傭兵隊長は軍事行動に長けているか、無能かのどちらかだ。もしも長けていれば、信用できない。なぜなら、雇い主である君主を脅かして、自らの拡大を図ろうとするからだ。

 伝統的に雇われた兵士が反乱を起こすのは次の三つの場合である。雇い主が兵士の将来を保証せず回顧したとき、雇い主よりもその敵についたほうが利益があるとき。雇われた兵士あるいはそのリーダーが権力を奪い、雇い主をひきずりおろすチャンスがあるとき。

 

 第十一章 市場力学と安全保障の世界的崩壊

 民間軍事会社の隆盛は戦争の形態そのものを変えた。民営化において、国家の行動主体は今ではもはやその軍隊ではなく、利益動機の行為者に変わってしまった。

 軍事的圧力は誰でも手に入れられるものとなる。軍事力の賃貸借方式は「小さな戦争をすばやく解決する新しい模範例となりそうだ」。


 第十二章 民間企業および文民と軍人の均衡

 文民の指導者は軍隊を必要とするが、強力な軍事機構は国家安全保障の砦であると同時に、政権自身にとってひとつの危険にもなりうる。この文民と軍人のあいだに第三者、つまり民営軍事請負業を入れることは事情をいっそう錯綜させることになる。

 小国・途上国においては少数の軍隊が大きな影響を及ぼす。

 

 民営軍事請負業と、国軍の関係には問題が多い。だがPMFは軍隊の圧力開放弁にもなっている。

 ――端的に言えば、多くの国は新たな民営軍事請負業の出現を静かに喜んでいる。なぜならば、復員や退役した兵士たちに仕事を与えるもう一つの手段だからである。……元軍人の失業は、不満が高じれば、他の人人とは比較にならないほど危険で破壊的になりうる。

 また米国においては、忠誠と道徳を誇る軍人がその技能を金儲けのために売買することは、職業的地位を下げることになると懸念する声もある。

 

 第十三章 道徳と民営軍事請負企業

 ――すべてのPMFを単純に善だとか悪だとか決め付けるのははっきりと誤りである。彼らは軍事行動という公的領域で活動している民間の行為者である。

 彼らは傭兵と同類だとか戦争犯罪を起こしがちだとかの意見に反論する。大衆からの好ましいイメージが長期的利益につながるからだ。彼らはみだりに人を殺すことがない。給料もあるので「安月給のためにしばしば略奪軍に堕落する現地軍や反乱軍などよりも高い水準にある」。

 会社はブランド・イメージを重視する。中には、麻薬組織やテロリストらを専門に支援する企業も存在する。

 民営化された部門における説明責任や結果責任は追及しずらくなる。虐殺に加担したがうやむやのままとなった民営会社もある。

 ――歴史が明らかにするのは、今日の「いい連中」がしばしば腹黒い意図を隠し持っていたり、最も正義にかなった崇高な大義が裏目に出たり、後になって奇妙に非道徳的に見えることがありえることだ。

 

 安全保障は公的な価値か私的な価値か? 

「政府が安全保障のさまざまな側面に責任を負わなくなったとき、国民が国家に忠誠であるべき理由の根底が弱くなる。」

 軍事独占の割合が減れば、その政府の正当性も減衰する。敬意の崩壊、金権的な統治システムへの回帰は、実際に世界で起りつつある。貧困層はますます落ちる。

 9・11以後のテロとのたたかいは、民営軍事請負業にとっては『ぼろ儲け列車』だった。

戦争請負会社

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