うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『精神病』笠原嘉

 精神病、とくに分裂病(現在の「統合失調症」)について書かれた本。はじめに、精神病の定義について説明する。

 心の不調を分類すると、「神経症」、「精神病」、「パーソナリティのゆがみ」の3つになる。

 パーソナリティのゆがみは、本人の心の不調によって、本人が苦しむ、もしくはまわりの人間が迷惑をこうむる点で、精神病とおなじようにおもわれるが、こちらは、病気ではなく、本人の人格のゆがみ、成長した結果ととらえられる。心の不調は本人のキャラクターなので、従来、精神医療はこの「パーソナリティ」には関与してこなかった。近年、この種の、異常で、迷惑のかかる性格の治療要望が増えている。これが、境界例というものである。

 一方、神経症と精神病はれっきとした病気として扱われ、症状の軽重によって分けられる。

 精神病の判断基準は次のとおり……1、特有の症状が出現する。2、世間のなかで人びととともに生活するという社会的な機能がうまくいかなくなる。3、「自分の状態がおかしいかもしれない」と反省的に考えることができない

 3つめの認識は「病識」、「現実検討力」と呼ばれ、病気の軽重の目安となる。

 精神病の原因は、身体に原因のあるもの、心理・環境に原因のあるもの、さいごに、原因不明もしくは内因性のものに分けられる。身体原因には、脳の異常や、薬物等の「物質性」原因も含まれる。内因とは、ひとりでにおこるものをさす。「ひとりでに」の原因として考えられるのは以下のような要素である。

 ――……遺伝子、体質、脳の素質的な代謝系のもろさ、心理的に対人的に敏感な素質、性格形成のかたより、生活史上の不幸、ある年齢になってはっきりしてくる社会的な能力の未熟さなどなど。

 気分病(うつ病)も、精神病のひとつだが、こちらも同様の分類がある。

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 分裂病の10の特徴……想像以上に数の多い病気である、青年時代に発生する、特有の経過をたどる慢性病である(発病―小康状態―再発―小康状態―再発)、精神病院の入院患者の6割を占める、症状の中心は「社会性・常識性の喪失」である、100パーセント狂気におちいることはない、治療は積極的におこなわれている、犯罪率は想定より低い、原因は不明である、人権問題としてよくとりあげられる。

 妄想の種類……次のような共通項「まわりの人間が変だ、不穏だ、どこへいっても自分のことが知られている」、「どこへいってもついてくる」という迫害妄想。

 妄想とは、あやまった観念であり、また本人だけがとらわれるもので、強い不安をともなう。

 ――妄想とは本質的に「ひとりで」の孤独な、内閉世界の悲しい現象です。

 分裂病では、幻覚よりも幻聴が多く、「人の声」がきこえ、「内容の一語一語ははっきりしないのに、意味は直観的に「一挙に」理解できる」、自分の行動に口出しする、のみならず、自分に影響を及ぼす。

 最後の「させられ思考」、「影響症状」は、分裂病に特有のものである。

 ――これらは幻聴とおなじように、外の力がわたしという主権国家をおかし、もっとも基底的な個人の真理的自由を奪うのです。

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 分裂病には陽性と陰性があり、陰性においては無気力、無為が顕著となる。

 分裂病において病識の程度は変動する。

 現代……精神病治療については、社会復帰させること、社会のなかに置いて治療すること、という方策がすすめられている。また、長期入院より、外来治療、制限のない治療が重視されている。しかし、こうした積極的な方法には、分裂病患者の自殺というリスクも存在する、と著者は念を押す。

 ――……今日この病気にかかわる人びとはおしなべて病人の社会復帰をこそ目標としています。原因追求では脳研究・心理研究・社会研究と登山口を異にしたものも、病人にしかるべきかたちで社会性を獲得させるという実践目標では意見が完全に一致するはずだからです。

 今日あらためて山の頂上に「社会性」というスローガンを掲げなおしてはどうでしょうか。

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 「分裂病」の名称は2002年から「統合失調症」に変更された。

 ほか、精神科医と患者のかかわり、精神病に対する国家政策、治療と福祉の関係について概要が書いてある。

 言語のサラダというものに興味をもった。

精神病 (岩波新書)

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