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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『生誕の災厄』シオラン

 ルーマニア人の随筆家。暗い雰囲気の断章が続く。

 作者は、生まれてきたことが不幸なことだとくりかえし書く。かれの脳みそでは、不幸と呪いはわけられている。

 ――不幸は受け身の、忍従の状態だが、呪いは逆方向ながらある選抜がおこなわれたことをしめし、使命とか内的な力とかいう観念を想定させる。そしてそれは不幸には含まれていないものなのである。

 生まれてきたことは、とくに意義のないただの失敗だと考えられている。

 仏教を調べているようで、「生老病死」といった宗教のことばを引用する。

 政治活動、政治思想、かれの時代に存在した共産主義などを批判している。あとで経歴を調べたところ、ファシズム活動に共感したときがあったらしい。エネルギーと勢いを感じさせる活動にひかれる人間が一定数いると感じた。

 ――私には、ニーチェのすぐ夢中になる態度がいやだし、彼の熱情までが気に入らない。彼は偶像を破壊したが、別種の偶像をかわりに押し立てた。贋の偶像破壊者で、いつまでも青年じみた側面を残し、孤独な生涯を送った者に特有な、なんとも知れぬ処女性を、無垢なものを持っていた。彼は人間を遠くからしか観察していない。もっと近々と寄って眺めていたら、超人などというものを思いついたり、喧伝したりはしなかったろう。この超人たるや、なんとも突飛な、グロテスクとはいわぬまでも滑稽きわまる幻想であり……

 現実にたいして夢をみることをとくに警戒している。つぎの文が笑えた。

 ――反逆にふさわしい年齢を越えていながら、なお怒りたける人間は、本人の眼から見てさえ、大小ともに垂れ流しの反逆天使という風に映る。

  ***

 ――ときには食人種になりたくなる。ただし、誰彼を貪り食らう楽しみより、食ったあとそいつを吐き出してやる楽しみのために。

 ――事柄はなんでもよい、何か唯一絶対というような経験をすると、諸君は諸君みずからの眼に、生き残りの人間という風に映るであろう。

 右の文に納得した。このような経験を押しつけられた人間は、勲章を得たような気持ちになるのではないか。

  ***

 ――人間は独特の匂いを立てる。あらゆる動物のなかで屍骸の匂いがするのは人間だけだ。

生誕の災厄

生誕の災厄