うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『神聖喜劇』大西巨人

 日本軍での営内生活を題材にした戦争文学。大西巨人は独特の硬い文体と古典の引用が特徴であり、他にも『精神の氷点』や短編集等おもしろい本がある。

 

 主人公東堂太郎は補充兵として招集され新隊員教育を受ける。入隊から卒業までのまわりの人間とのやりとりや事件を題材にしている。

 作品構成としては雑学についてのパート、部落差別についてのパート、営内における小銃破損事件のパート、東堂の軍隊批判と論争のパート、等に分かれる。各事件と、主人公の回想や引用が混合されており映画のようにはスムーズに進行しない。このような入り組んだ世界は文字でないと表現できないものだと感じた。

 印象的な人物が複数いて、大前田軍曹は東堂いわく「日本農民」を体現したような手ごわい人物である。度々、東堂ともめるが、物の見方や活動方針については「一種の公明正大な精神」を持っている。中国で戦闘したときの残虐な経験を淡々と語る一方で早く復員したいとコメントする等、平常の人間らしい感情も備えている。東堂は敵でありながら軍曹を評価している。

 大前田は、「貧乏人は軍隊に入れば自由こそなくなるが金がもらえるからよいだろう」と言い放った相手をひっぱたいた。無知な農民たちには、食事さえ与えておけば自由や尊厳など不要、という思考は人間性を否定するものである。

 主人公がもっとも嫌うのは卑劣な人物、臆病で卑怯な人物、見栄や世間体を気にする俗物、ゴマすりたちである。かれらの経歴、台詞、行動がくわしく書かれている。

 部落差別は本編全体で取り上げられている。人間は差別する性質を持っておりこの特権は意識して抑えなければならないようだ。

 ほか、膨大な引用はだいぶ読み飛ばした。

神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)

神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)

 

 

神聖喜劇〈第2巻〉 (光文社文庫)

神聖喜劇〈第2巻〉 (光文社文庫)

 

 

神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)

神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)

 

 

神聖喜劇〈第4巻〉 (光文社文庫)

神聖喜劇〈第4巻〉 (光文社文庫)

 

 

神聖喜劇 (第5巻) (光文社文庫)

神聖喜劇 (第5巻) (光文社文庫)