安全保障法案に反対する著者の本。
1
国連憲章は、国連的措置(すなわち集団安全保障)が行われるまでの間、各国に対し個別的および集団的自衛権を認めている。
個別的自衛権と集団的自衛権は、国益を守るために行われる。一般的に、自衛権の行使に際して、予防的武力行使は国際法違反とされている(例:イラク戦争)。
一方、安保理決議を受けた国連的措置は、建前上、世界の利益のために行われる。よって、それが自衛でなくても平和維持軍が出動する。
日本は1951年以来、個別的自衛権と(武力行使を伴わない)国連的措置を認めたが、集団的自衛権については否定してきた。
2
集団的自衛権の行使例は、ソ連のアフガニスタン侵攻、イラク戦争、湾岸戦争である。湾岸戦争については、アメリカが国連安保理決議を取り付けたので、国連的措置と集団的自衛権行使が一体化した。
日本は湾岸戦争を契機として軍事分野を除いたPKOへの活動参加を増やし、やがてアメリカの戦争を支援することになった。
有志連合によるタリバン制圧作戦に参加した日本は、法治国家として逸脱していたと指摘する。
――これは、完全に日本国憲法からの逸脱行為でした。集団的自衛権の行使が認められていないのに、「後方支援」を言い訳に行使を実行し、あまつさえ、集団的自衛権の行使の条件(急迫不正の侵害の脅威の可能性)からも外れていたのです。
アフガンでは、その後軍閥が再度抗争を行い、タリバンが復活した。アメリカはタリバンとの和解と、米軍撤退の道を探り始めた。
――多民族国家の宿命として顕れる強権政権を、独裁だの、人権侵害だのと言ってむやみにコテンパンにするとどうなるか、人類はよくよく理解しなければならないのです。
イラク戦争においても、国連決議のない予防的武力介入に対し「人道復興支援」というあいまいな名目で自衛隊を派遣した。「非戦闘地域」での活動に限定するという政府の方針も嘘で、米軍の軍事支援をしないという制限も嘘だった。
その後、アメリカの2つの戦争はどちらも失敗し、米兵の死者数は同時多発テロでの死者数を超え、2つの国の情勢は過激化した。
対米従属はアメリカからの圧力のみならず、日本政府が意図的に誘導してきた方針である。
アフガン復興支援に鳩山政権が拠出した資金は軍閥・腐敗警察の再武装化、タリバンへの資金流入に貢献した。
3
第2次安倍内閣による憲法解釈の変更と、変更しようとする理由について。
これまでの武力行使の3要件は、次のとおりだった。
1 我が国に対する武力攻撃が発生したこと
2 この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
3 その上で、実力行使の程度が必要限度にとどまるべき
当該内閣はこれに加えて
1 密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し
2 我が国が存立危機事態に陥ったとき、
3 必要限度の実力を行使する
とし、集団的自衛権を容認した。しかし、存立危機事態の定義は時の政府が決めるものとし、地理的制限も存在しない。
政府が憲法解釈変更を急ぐ理由は、「アメリカが日本に集団的自衛権行使を求めている」と政府が考えているからである。
集団的自衛権に合わせて、国連的措置への参加範囲拡大も進めるとの決定がなされた。
4
安倍首相の著作『この国を守る決意』からの引用……
――自分の時代には新たな責任があって、それは日米同盟を堂々たる双務性にしていくことだ。
――軍事同盟というのは血の同盟であって、日本人も血を流さなければアメリカと対等な関係にはなれない。
ノルウェーは「平和」ブランドを活かしNATOや国連に貢献する。ドイツは先の大戦を活かし、国連決議を重視する。一方、日本にはそういった参加方針はなく、米国の要請と、安全かどうかで(これも嘘をつくが)政策を判断する。
著者は、日本は「平和主義である」、「欧米とは異なる」というイメージを活用すべきであると主張する。また、日本に適した集団的自衛権の行使は「COIN戦略(Counter Insurgency)」、すなわち人心掌握戦であると考える。
安倍内閣の想定する集団的自衛権行使のパターンはいずれも非現実的か、個別的自衛権で対処可能なものである。これらはROE(交戦法規)の運用の問題であって、憲法解釈の問題ではないという。
アメリカは中国と本格的に対立する意図はないため、日本が中国に対し挑発的態度をとることをよくは思わないだろう。
自衛隊には軍法がないため、海外派遣された場合、国内法でも現地の法でも自衛官を裁くことができない。このような無法集団が、現地人からどう思われるかは想像に難くない。
5
日本の抱える領土問題や拉致問題については、ソフトボーダー(軟着陸)を提唱する。戦争を避け、実利を取るならば相手と断交する強硬姿勢は無意味である。
解決案……
・拉致問題は真実解明を第一とし、人道性において優位に立つため、北朝鮮への人道支援は続ける。
・尖閣諸島の棚上げを継続し、中国に対する挑発をやめる。
・北方領土は共同管理または半分返還とする。
・竹島はおそらく困難だろうが、可能性はある。
こうした日本固有の問題のいずれも、集団的自衛権でどうなるものではない。現状であっても、米軍基地の多数存在する日本に中国や北朝鮮が攻撃してくることはない。あるとすれば、ゲリラや工作員を用いた破壊活動である。
6
・民主主義国を戦争に導くのは、恐怖、熱狂、自衛への強い意識である。
・PKOは近年変質しており、中央アフリカでは武装組織の掃討を行い、リビアでは体制を転覆させる空爆を行っている。「住民の保護」のためには攻撃的な処置が不可欠であるとの反省からだ。
・9条は当初、日本を軍事大国化させないための処置として作られた。しかし、現在では対米従属に対するブレーキの役割を果たしている。
・イラク戦争では少なくとも10万人のイラク人が死んだが、日本政府はイラク戦争と自衛隊派遣双方ともに有意義であったという見解を保持している。
***
本書は憲法解釈変更と法案改正に反対の立場だが、わたしはこの意見に部分的に同意する。
政府はアフガン侵攻、イラク戦争以来の見解を全く変えていない。
この改正についても、米国側に何らかの協力を要請するものではない。首相以下閣僚は嘘をついており、信用に値しない。このような指揮官に振り回されることでまずは公務員が被害を受けることになる。
憲法の精神に則って紛争解決のために積極的に活動したいならば、まずは自衛隊の法的立場を修正すること、対米政策を見直すことが前提になるのではないか。
***
◆所見と疑問
・なぜ対米完全従属か、完全離反(見放され?)かのどちらかしかないのか。そこをどうにかするのが外交ではないのか。
・米国の後方支援またはPKOで小規模の犠牲を出すことにより、貢献していますアピールをしたいということだろうか。小規模の公務員に死んでもらえば、何となく国の威信も高まる気がする。
本物の公務員になりたい公務員は歓迎するかもしれない。自分の属する組織から死人がでれば組織全体の威信が高まるからである。作業員は正当性があろうとなかろうと能力向上と経験蓄積につながればいいのだろうが、使役する文民側がそれでいいのか。
この世は厳しいので、何人かの公務員が死んで「全体としては安全が確保される」と言われればそれは良いことだというのが一般論になる。
その他疑問点……
・イラク戦争は正当性があったの弁、派遣も正しかったの弁
・戦闘員としての地位無し、捕虜の扱いなし
・海外での武器使用罰則なし
・リスクが増えない、国内テロの危険は増えない発言
・存立危機事態の定義が不明
・リスクのない後方支援の謎
・テロリストの居場所がわからない方々による邦人救出作戦
・天から降ってきて売りつけられるオスプレイとグローバルホーク
日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 (朝日新書)
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/10/10
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