うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ホメロス』ジャクリーヌ・ド・ロミーイ

 第一章 両詩篇の誕生

 ホメロスは前八世紀に生きた盲目の詩人である。この前提が既に論議をまきおこす。

 優美豪勢なクレタ文明は、荒削りで強力なミケナイ文明に敗北した。線文字Bを用いるミケナイ文明はアガメムノン王に率いられトロイア遠征をおこなった。これはミケナイ王国の末期で、彼らはすでに北方からドリア族により攻めらていた。

 ドリス族からはじまった動乱によりギリシア人は拡散した。このとき、小アジアの半島において二大詩篇が誕生したという。だがこれは口承の詩なのでその修正や発展などは知ることができない。

 文字を使わないため記憶法が発達した。反復、同じ修飾など。ホメロス以前の口承詩や伝承が、ホメロスによって開花されたのだ。

「各詩篇ともたくみに構成され、唯一の主題をめぐっての、論理的かつ劇的な関連で相互に結合された挿話の一大集合体をなしている」

 イリアスは怒りの物語であり、復讐の後最後に心の安らぎが訪れるまでの、悲劇的な結末にいたる物語だ。

 ホメロス詩篇は文字の復活とともに固定され、文学の王国を築いた。やがて「ホメロス問題」が生まれたが、これは「技巧批判を文学的鑑賞と対立させる、難聴者同士の対話みたいなもの」だった。そこに「新分析派」があらわれた。

 イーリアスとオデュセイアの、もっとも大きな相違は両詩篇の世界である。

「一方は戦争を扱い英雄同士を対立させる。他方はただ一人の男を暴風、怪物、魔女らと対立させつつ帰郷と海上の孤独な冒険を扱う」。

 

 第二章 叙事詩の世界と歴史

 登場人物は現在の人間よりも優れた英雄であり王である。彼らは多くが神の子である。「美しい過去」の物語だからだ。

「詩人は自分の時代と違う過去を呼び出そうとつとめている」

 クレタ島の遺跡や、トロイの遺跡の発見は、むしろこの詩篇がいかに美化された叙事詩的世界であったかを証明することになった。

 

「詩人は正しい信頼するに足る多くの情報に、無知や想像、それにおそらく種々の伝説を混合したわけである」

詩篇はその全体が、歴史から出発し、歴史の過程に沿い、そして或る程度は歴史に反して制作された」

 

 第三章 両詩篇の構成

 『イリアス』の構成について。はじめの数行で主題は告げられる。アキレウスの怒りと葛藤の物語。ゼウスの神意がある限り形勢はトロイアに有利となる。

アキレウスの怒りを中心に構成された叙事詩は、この数週間の筋立ての中に、進行中の戦争、明日の戦争の明確な見通しをそっくり包み込む」

 

 リズムを埋めるのは少しの単調さも感じさせぬ戦闘場面だ。アカイアとトロイア、またそれぞれの側につく神々の対立という二重の物語。神々は人に化けてこっそり参戦する。

 『オデュッセイア』、オデュッセイアの帰国の物語と、その目的地イタカにおける陰謀と裏切り。イタカ→オデュッセウス→イタカのオデュッセウスという構成を持つ。

 古代の著作者はふつう直線的連続を好むが、この詩篇では視点の変更があり、また語り手も変わる。冒険を語るのはオデュッセウス自身だ。

 

 第四章 詩作の手順

「物語の骨組みは、具体的で直接的な要素だけを残すという独創性をみせる。これは、人間の内部世界の分析がまだ行われていないという事実に基づくことは疑う余地がない」

 登場人物は言動のみであらわされる。彼らはわれわれに直接話しかけるので、ここに演劇の萌芽が見られる。

 心理学的手法の欠如は利点をもたらした。すべては五感から感じるものである。

「進行の速やかさとその具体的な実現がそれらの人物に立体感を与えるからだ」

 アキレウスの決意はなんの説明も躊躇も分析もなしに一気になされる。

 感情は単純で生き生きとしている。性格も単純で率直だ。

「筋の進行につれて変化するこの多様性は英雄たちに生の流動性を与える」

 また人物には卑しいところがない。

「われわれに示されるのは微笑みや言葉だけで、われわれはその調子を推測し、われわれ自身でそれを解釈する。叙事詩における暗示の深さは、物語が秘める直接的な、具体的な性格によっていっそう強調されるようにみえる」

 定型詩行の駆使は、両詩篇においては詩想の豊富さをますます豊かにしている。また反復は自然や社会の秩序をあらわす。おなじ枕詞のつく英雄に出会うとわれわれは安心する。反復とは強調である。

「定型句に依存することは、はなはだ古拙だとしても、場合によっては、きわめて洗練された、深い意味をもつ技法になることができる」

 『イリアス』には、自然界や動物界を用いた長い比喩が多く見られるが、『オデュッセイア』にはそれが少ない。

 感情の盛り上がりに達するときは、詩人自体が人物に語りかける。

 

 その他

 ゼウスは王であり、世界はその兄弟ハデスとポセイドンに分割された。その他ゼウスの子達。ゼウスは腕力を持っているが、一族はなかなか従おうとしない。また登場人物は凡人ではなく英雄である。

 英雄は死すべき者である。

ホメロス (文庫クセジュ)

ホメロス (文庫クセジュ)