うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『マニ教』ミシェル・タルデュー

 善悪二元論の代名詞となったマニ教についての説明書。

 

 第一章 マニ

 マニは五二七年、バビロニアの上ナール・クーター地方のマールディーヌという城塞都市に生まれた。アルサケス朝アドハルバン王のときだ。父親の名はパッティキオスだと伝わる。家族はナブ神信仰というバビロニアの伝統宗教に属していた。母がマニを身篭ったころ、父は「ムグタジラ派(自らを洗うものたち)」に改宗する。これはパブティスタイ(洗礼派)のアラビア語読みである。

 ムグタジラの長はアル=カサイと呼ばれる。彼らは「存在」には男性性と女性性があると考えた。この派の特徴は身体および食物の両方にかかわる儀礼的洗浄である。ムグタジラ派は自らを「白装束」と自称する。

 食物には厳しい戒律があった。肉や発酵物は禁止だが、おなじパンでも、よくないパンと食ってよいパンがあった。こういう戒律から、マニは独自の宗教を考え出した。

 ムグタジラの創始者エルカサイは、神話的人物が歴史化されたものだ。彼は天使から書物を受け取り、ソビアイという直弟子に手渡したという。エルカサイはユダヤ教徒であったという説がある。火を蔑視し、水こそが大切であると説いた。

「「エルカサイ」は本質的にユダヤ教の流れを汲む実践的律法主義の上に、(ユダヤ教)黙示録に特有の預言者論と、イエスの語録(ロギア)に読み取られるキリスト論を接ぎ木して、組み合わせた」。

 つまりユダヤキリスト教エルカサイ派である。

 四歳からマニはムグタジラ派に入信した。マニが十二歳のとき、天啓が下った。それは光の園の王から来たものだった。天使の名はアル=タウム。ナバテア語で『同伴者』の意。

 マニの預言者としての成熟には、キリスト教使徒トマス(イエスの双子の兄弟)が関係する。マニとムグタジラ派の対立は、イエスとユダヤ教のそれを模倣したものだ。

 マニに反対するものは彼を偽預言者として死刑を叫んだ。

 マニの父親は事情を釈明しろ、とムグタジラの長老たちに言われると、「あなた方自身で彼に出頭させて説得しなさい」と言った。マニはまず洗礼教団の実践がイエスの振舞いと矛盾していると述べた。イエスとエルカサイの名の元に彼はエルカサイ派を攻撃した。

「知恵と認識は、神の使徒たちによって、時代から時代へと絶えることなく継承されてきた」とマニは『シャープーラカーン』に書いた。新しい福音、使徒マニによって伝えられる新しい時代。『巨人たちの書』。

 マニは、使徒イエス、ゾロアスター、ブッダの精神的継承者である。このことをシャープール一世に示唆した。

「マニの独創性は、教義構造としての二元論にあるのではなく、むしろ、全世界を視野に納めた預言者論に基づく一つの教会論を練り上げたことにある」

 

 救いは、一定の正統教理に従うことには依存しない。すべての人の救いはマニ教会への慈悲行為によって決まる。またマニはパウロに影響を受けた。マニの晩年には、マニ教はペルシア宮廷と癒着したマズダ教により残虐な弾圧をうけた。このとき彼は自分たちを、イエスやその使徒と結び付けただろう。

 伝道の結果、西暦二七〇年には、マニの宗教がイラン全土に根を下ろした。シャープール一世が死んだとき、もしかしたらササン朝ペルシア全土がマニ教になっていたかもしれない。だが王の息子と孫たちはゾロアスター教に留まった。

 暗君のもとで、ゾロアスターの聖職者キルディールの権力が高まった。彼はマニ教を弾圧した。マニは既に敗北を認めていたから、マニ教厭世観と過激な二元論はここに由来するのだろう。彼はバハラームに捕らえられて拷問をうけ、死亡する。マニ教ゾロアスター教との抗争に敗れた。

 書物の宗教は、神について語るために、言語と書記法の明晰性を備えていなければならない。マニは新しいアルファベットを発明し、これを用いるのは教徒に留まらなかった。『巨人たちの書』は巨人(ネフィリム)の登場する、寓話的物語である。本書は『エノク書』やさまざまな黙示録の影響を受けた。


 第四章 万神

「マニは、事物の本性の原因および原罪の様態についての自らの見解については、伝説的物語という文学的枠組みのなかで説明した」。

 彼は詩人であり幻視者だった。

 天と地が存在する前に、二つの本質、善と悪が存在する。善は、光、偉大なる父であり、その周りに知性、知識、思考、熟慮、意識という五つの住居(スキナタ)がある。

 悪の本質は暗闇の王(ムレク・ヘシュカ)である。五つの世界、煙界、火界、風界、水界、暗黒界に住んでいる。これらは暗闇の大地と呼ばれる。

 善と悪はたたかいをおこなう。神々は、多くの名前をもつのが特徴である。また、五による組み合わせが多い。その他の神「活ける者たちの母」、「原人」、「原人の五人の息子」、「光の友」、「大いなる建築家」、「生ける霊」、「生ける霊の五人の息子」、「使者」、「光輝のイエス」、「光の処女」、「完全な人間」、「完全な人間の五つの肢体」。

 マニはキリスト教文化圏において異端の代名詞だった。 

マニ教 (文庫クセジュ)

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