うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『機械発明史』アボット・ペイソン・アッシャー

 戦前に刊行されたもの。

 訳者序文によれば、本書は機械発展の地理的環境および発明の功績をとりあげるものである。技術的で難しい箇所もあるが大まかな発達の流れはわかる。

 

 第一章 経済史上における技術工学の位置

 機械の発明を論じるにあたってまず用いられるのは地理経済学および技術工学である。

「即ち地理的条件は主として環境に対する受身の適応に関係し、技術工学に関する与件は人間の努力による環境の積極的変化の過程に関係している」。

 アッシャーは従来の説とは異なり、個人の発明の業績、技術の漸進的発展を重視する。

「経済史上の真の英雄は科学者であり、発明家であり、発見家である」。

 人類の進歩は有名無名の科学者たちにこそ依存している。

 制度ではなく、人類の精神的所産に、歴史の真の成果を認める。宗教家、芸術家、科学者など。

 

 第二章 機械発明の過程

 革新(Innovation)は霊感によっておこなわれるのでなく、比較的優れた人間の知力によっておこなわれる。

「あらゆる学習過程において……伝統習得の必要があると同時に、不断革新の必要がある」。

 ――神秘の覆いは、最も平凡な人間にも、最も傑出した天才にも、平等に覆いかかっているのである。

 土壌と生育。発見から発明へ。「目的を達する手段として、直接的なものではなく、寧ろ間接的なものを選ぶ為には、実は行動に多大の革新を必要とする。この事は、あらゆる発明の特質的要素である……」。障碍の克服。

 知覚は完全な統一体として生まれるというゲシュタルト、configurationの学派。まず欲求が生まれ、それと発明家の経験がつなげられ、発明にいたる。発明の過程は、古代においては経験本位だったが、近代科学の時代以降は構成的想像力がよく使われるようになる。

 蒸気機関は発見と批判の蓄積によって完成にいたった格好の例である。障碍の克服が発明の本質だが、「実はその抵抗は悉く吾々の心の裡にあるのである」。それは既得の習慣や思考法、伝統である。

 ――発明家は芸術家と同様に常規の世界と常規を逸した世界との境目に住んで居り、……自らの描く白日夢の裡に満足、少なくとも鼓舞激励の泉を見出し、時によると正真正銘の発明完成にとって有力な源泉を見出す事さえあるのである。

 アッシャーは神秘的な要素を拝して発明の過程を説明している。

 

 第三章 純粋力学と応用力学の古代史

 古代においては、「実践は理論よりも一歩先に進んでいた」。普遍化・単純化・体系化といった科学の根本がやがてつくられる。

 重要な二つの系統は、アリストテレス学派とアルキメデス学派である。もっともアルキメデスはアラビア世界に伝わったまま長い間埋もれていた(『カリストンの書』はアルキメデスによるものではない)。彼らの静力学、動力学には誤りが含まれていて、まだ経験本位、直感本位の考えを抜け出していなかった。

 アルキメデスらは軍事工学、応用技術をさかんに発明したが、「この種の力学関係の論文は、明らかに経験本位の域を逸脱しており、最も優秀な場合にはすばらしい成功を収めている」。発明史にとっても重要である。

 五つの単一機械……梃子、輪軸、滑車、楔、螺旋、これをまとめたのはアレキサンドリアのヘロン、フィロン等。土木工学、測量術においてギリシア人は秀でていたが、他の分野は停滞していた。

 十三、四世紀、ヨルダヌスといわれる無名の科学者らによって静力学の基礎が完成した。またこのときに実験科学はおこった。

 新しい綜合の発端はレオナルド・ダ・ヴィンチである。集団的実験。

「研究は比較的高遠な目標を目指して続けられ……発明の過程は知覚の領域から想像の領域へと移行した」。

 彼や中世の軍事工学技術者たちは皆、物事を機構(メカニズム)本位でとらえる思惟法を備えていた。そして、力学における古代と近代とを分かつのはガリレオである。

 天文学、物理学、力学を綜合したのがニュートンである。業績がさらなる業績を生み出すのであって、天才が散発的にあらわれるのではない。

 ――そういうわけで或一つの業績を申し分なく完全に知悉するということは、結局これを一つの過程として考えるということ、即ち更に簡潔にいえば、歴史的に知るということである。

 

 第四章 キリスト紀元以前に於ける機械装置

 「機械」ということばを定義するのはむずかしいが、おおまかに言えば連動して力学的に仕事を強制するものだといえる。家畜や人力を使ったものから精密機械まで、「それぞれに完全な機械の長い段階が存在する」。機械は「力制限force-closed」をおこなう。

 ――ルーローの分析によると、この運動制限が完全になるということが機械の完全さを示す標準である……力制限はつがい制限乃至はチェーン制限へと変わっていく。

 人力から家畜、水力、風力、そして熱と電気に至る。アレクサンドリアのヘロンの、五つの単純機械の定義……「輪軸、槓杆(lever)、滑車、楔、ネジ巻き」に、ルーローは反対する。

 ルーロー曰く、赤ん坊が回転物に目をひかれるように、機械を知らぬ人類はまず運動に注目した。それから長いときを経て紀元前一世紀頃に、運動の力の側面に気づいた。
水汲みつるべのように、兵士を城壁にひきあげる装置。単檣起重機(クレーン)。梁圧機、揚水車。

 古代・中世の飛び道具で発達したものに弩がある。しかし引き絞る革紐の部分が気候の変化に弱かった。金属バネを用いるのは技術的に難しかった。

 

 クテシビウス発明のサイフォンの原理は、勉強する必要がある。水圧オルガンが古代には既につくられていた。風車オルガンは、「明らかに古代において「風車」を利用した唯一のものである」。仕掛け人形芝居。

 古代においてすでに完成していた精密機械には、たとえば水時計、記転器(cyclometer)、各種測量器がある。記転器とは車輪と連動したメーターで走行距離を測るもののようだ。

 馬具や蹄鉄などが粗末だったため、家畜利用は運動能率が悪かった。また、クランク運動(往復運動と回転運動の連動)はまだ生まれない。五つのチェーン……ねじチェーン、ホイール・チェーン、カム・チェーン、ラチェット・チェーン、プレイ・チェーンが出現した。

 ――この時代の職とする処は初歩の原理に関する基本的規定と、運動に関する研究であるということができる……従ってこれに続いて現れる発達は既に獲得されている知識の普及に他ならないと見ることもできる。

 

 第五章 水車と風車の発達

 紀元前一五〇年―紀元一五〇〇年にかけて用いられた。河床における簡単な水力利用の一例が製粉機である。馬具は漢王朝のときに発達をとげている。一方ヨーロッパでは、十世紀ころになりようやく馬具および蹄鉄の改善が見られた。東ローマ皇帝レオ『戦略論strategon』。

 

 第六章 水時計と機械時計

 水車・風車にせよ機械時計にせよ、どちらも資料が乏しいため正確な起源がわからない。この本が書かれた時点では、機械時計は九世紀および十世紀まで遡るとされている。

 機械時計の発明には脱進機が欠かせなかった。時打装置および脱進機の不完全のため、はじめは水時計日時計のほうが信頼されていた。機械時計が優勢になるのは十五世紀あたりからのことである。

 十四世紀にシャルル五世の宮廷用時計を開発したハインリヒ・フォン・ヴィック(ド・ヴィック)が「あらゆる初歩的原理を完全にものにし」た。

 ――(ルーローの)言によると、機械の進歩は「力制限」の優勢な機構から「つがい乃至はチェーン制限」の優勢な機構へと移っていく。

 歯車の面の間に生じる「すき」「あそび」は自然に力制限をおこなってしまう。よって歯車を精巧にすることは無視できぬ課題だったのだ。

 十五世紀、ニュルンベルクなど中南部ドイツで時計製作が栄え、富裕層に限ってではあるが、家庭用時計も普及するようになった。ティコ・ブラーエは恒星観測には時計は不完全だと文句をつけたが、十六世紀になると精密機械としての信用性はずっと大きくなる。

 

 第七章 技術家兼発明家レオナルド・ダ・ヴィンチ

 彼の芸術と科学における功績について。芸術のみが注目され科学者・発明家としてのダ・ヴィンチがおろそかにされてきた所以を述べる。

 ――芸術家の作品はそれ自体が一つの完結したものである。即ち之は明らかに個性化されたものであり、一般に明白な記録であり……芸術上において永遠の価値を持ったものである。之に反して、発明家や技術家の業績は、いわば完成に向かう流れに寄与するにすぎないものであって、この流れの中にあっては或特定の個人の業績であるという点の証明は、社会生活に当然な事情によって抹殺されてしまうのである。

 力学・機械学におけるダ・ヴィンチの影響は大きい。軍事工学についての手記。

 ダ・ヴィンチは実現こそしなかったものの、運河建設計画も残している。ほかクレーン、起重機、など。手記はすべて弟子のフランシスコ・メルチが受け継いだ。その後各地を転々とし、パリに落ち着いた。そのあいだに手記は水力学に影響をおよぼした。

 さまざまな歯車のかたち。彼の着想に沿って、後世の人間が新技術を完成させた。着想でとどまっていたためこの業績が認められるのに時間がかかった。

 

 第八章 印刷術の発明

 『グーテンベルクの銀河系』で読んだ趣旨に沿っている。

 絵画用インキを用いたこと、活字の鋳造の変遷、など細かいこと。はじめ、印刷本はぜいたく品の域を出なかった。蒸気機関や汽船、電車と同様、普及は発明の最後にやってくる。

 アッシャーはグーテンベルク個人の功績に疑問を感じている。「なにを発明したのか?」。

 

 第九章 織物工業用機械

 養蚕をともなう生糸工業の起源は中国である。それ以前に近東・エジプトやインド、小アジアで生糸採取がおこなわれていたが粗悪だった。景教の僧が四世紀の東ローマに生糸生産技術を伝えたことで、絹織物の発達ははじまった。

 踏木付織機は支那およびヨーロッパで完成してからはほとんど発達していない。横型織機、竪型織機。上等な織物はすべて綾織機によってつくられた。

 紡績業について……糸捲機と縮縮機も織物工業のはじまる直前から記録に現れている。縮縮機(漢字が出ない)は水車によって巨大ハンマーを動かし糸を圧縮する装置である。人間よりだいぶ大きい。普段は住民の洗濯機としてもつかわれた。

 西洋で本格的にこの分野の発明がおこなわれるのはダ・ヴィンチの時代からである。円筒に小刀を螺旋状にとりつける、芝生用草刈機の機構は、織物裁断機の考案からうまれた。羊毛や亜麻は技術的な難点が多く、機械化が進行したのは絹糸工業からだった。

 近代の織物工業の発達はほとんどイギリスによってなされている。精紡機のパイオニアが一七六七年にハーグリーヴズの発明したジェニー機である。

 

 第十章 自鳴鐘(クロック)および携帯時計の発達とその精密機械化

 時計の分野における脱進機および調速機は個人の発明ではなくゆるやかな発達の結果である。

 ――一五〇〇年から一八〇〇年に至る三世紀間における自鳴鐘並びに携帯時計の歴史は純粋、応用両方面の力学史上における重要な一章である。ぜんまいからくる力をつねに一定に保つために、「スタック・フリード」という装置が必要とされる。これを機械工ヤーコプ・ツェッヒが改善したのが鏈引装置である。それでもはじめは、精確な重量時計とくらべれば高級玩具にすぎないとされていた。

 十六世紀初頭より、小型懐中時計は「ニュルンベルクの卵」と呼ばれ普及した。一方家庭用はテーブル用ないしは暖炉棚用置時計となった。これには暦を表示するものもあった。

 振子利用……「スペインにいたアラビア人は早くも十一世紀初頭において振子を利用していたといわれている」。その後の貢献者はガリレオとホイヘンスである。脱進機の発展。ひげぜんまいの発明の頃には、既に著作権争いがはじまっている。ロバート・フック、ホートフイユ。

 ピエル・ル・ロワの航海用クロノメーター。

 

 第十一章 動力の発生と利用

 十八世紀にはスミートン、ワット、エヴァンズにより著しい発達をとげる。それまでの動力といえば家畜や水、風程度だった。水力および風力は場所が限定されており、費用も高い一方、筋肉労働はコストの面で優れていた。

 共同都市給水装置が十六世紀ころからヨーロッパ各地に普及しはじめたが、これはギリシア・ローマのものと技術的には変わらなかった。揚水機、プランジャー・ポンプの開発は、蒸気機関への布石となる。司水機関。

 ニューコメン機関は最初の実用的な蒸気機関である。ワットはこれに批判的研究を加え、新たな凝結機をつくった。さらに実用化させたのが合衆国のエヴァンズ(製粉所)と英国のトレヴィシック(機関車)である。機関車を走らせる場合、線路の勾配や曲線抵抗が重要だと考えたのがジョージ・スティヴンスン(リヴァプールマンチェスター鉄道会社)である。

 

 第十二章 工作機械と大量生産

 精密機械以外は木製が主流だったが、十八世紀末より金属による生産がはじまる……経験中心主義からの変化。モーズレーによる工作機械の改良。旋盤、中刳り盤の改良こそ、「金属加工業の新技術を生み出す為の」一歩だった。

 小銃部品、造船工廠の歯車の大量生産。銃架の大量生産はアメリカが著しい貢献をした。

 

 第十三章 一八三二年以降における動力の発生と配給

 エネルギーによる都市の再編成……蒸気機関の発明により石炭採掘地が栄える。石炭のない土地では、水力発電がおこなわれた。一八三二年、フールネイロンがタービン水車を発明する。

 ――タービンの発明ということは動力利用の普及化という点においてはまさに第一級の業績であった……

 タービン水車は重力落下を利用して円筒に水を流し羽根に回転をかける。回転には輻射型(radial)と軸並型(axial)がある。水車だけでなく、蒸気タービンも開発された。蒸気の漏洩を防ぐため高度な工夫が施されている(わたしには理解できんかった)。

 大型タービンによって蒸気船がつくられ、英国海軍はつぎつぎと戦艦を建造する。

 電気についてはファラデーおよびエジソンの功績が大きい。内燃機関の発明完成過程には大変長い期間が費やされている。一八八三年、ダイムラーがガソリン機関をつくり、一八八五年、ルドルフ・ディーゼルが重油機関をつくる。

 

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 発明は神秘ではなく業績の積み重ねによって完成する。経験の範囲でおこなうものから、想像力を実現する段階へ移行し、技術は進歩する。

機械発明史 (1940年)

機械発明史 (1940年)