山椒魚が人類に代わって地上の支配者になるという話。
作家は自分が生きている時代が気にかかってしょうがない。よって山椒魚を主人公にしたこのファンタジーは、現実を映す鏡として書かれたものである。両生類ではなくサルが生物の覇者でなくてはいけない、という理由はない。
――周知のごとく、人間は社会的な地位が高くなればなるほど、表札が簡単になる……神様ときては、天にも地にも表札一つない。
オランダ船バンドン・カンドン号船長ヴァントフへの着目から本ははじまる。彼は原住民の近づかない「魔の入江(デヴィルズ・ベイ)」で不思議なサンショウウオを発見する。この生き物たちは学習能力をもっていて、ヴァントフの言葉にしたがって真珠貝をとってきてあけようとする。
まだ白人や現地人に荒らされていない島を発見した船長は、同郷のユダヤ人ボンディに出資を打診する。
一九三五年の小説だが舞台は蒸気船が量産されはじめた頃のアジアである。チェコ人ヴァントフはじめ類型的な外国人が登場する(アイスランド人グトムンドソン、スウェーデン人イェンセンなど)。
諺ふうの短い語りと、会話を中心に話は進む。ボンディと船長がはじめた、知恵のある山椒魚をつかったビジネスに、いろいろな人間が遭遇することになる。人物は皆ユーモラスにつくられている。
人語をあやつるようになった山椒魚は、やがてボンディの設立した山椒魚シンジケートによって売買されるようになる。ここから、第二の知的生物たるサラマンダーの歴史が書かれる。新聞記事、回想録、挿話をはさみつつ、空想の歴史が語られる。知恵をもった山椒魚に権利はあるのか云々……。
山椒魚は文明をつくり、次第に人間を圧倒するようになる。彼らには「わたし」と「われわれ」の違いが理解できない。よって分裂した人類よりも優れた種である、と匿名Xは言う。ヨーロッパ諸国は山椒魚を武装させ、戦略に用いる。
海岸線を要求する山椒魚と、まず大英帝国が戦争に突入する。大陸を細切れにして海岸線を増やしたあげく、山椒魚の内戦で山椒魚は絶滅し、人間もまた原始に帰る、こういう結末はどうかと作者が提案しておわる。
大戦前夜の情勢を感じとり、人類の没落を案ずる。
- 作者: カレルチャペック,Karel Capek,栗栖継
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/06/13
- メディア: 文庫
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