大変読みにくい。
軍事史における交通、速度、身体の役割を解説する。都市計画は国防に深く関係する。が、文芸的な表現が多くて理解しにくい。
第一部 速度体制の革命
街路が群集を加速させ、攻撃の方向を制御する、とゲッベルスは言った。都市はいまや居住可能な交通にすぎず、街路を制御するのはただ速度の法令のみである。日本では、駐車禁止は集合禁止にほかならない。流れを停止させる病院や監獄は淀みにたとえられる。
古代の君主が要塞をつくったように中世のブルジョワジーもまた自由都市という要塞をつくる。工兵は軍事技師であり、要塞を支配する。
「治安警察とはすなわち交通規制であり、それこそが国家の政治権力である」。
自動車、モータリゼーション、これらは民衆に加速力を与えた。社会主義、国家社会主義、全体主義とは、運動独裁である。突撃隊と、政治的突撃隊たる群集。近代より速度の重要性が高まった。突撃とは戦場で助かる手段である。砲弾の射程が広くなれば、一刻も早く砲手のところまでかけつけて殺さない限り逃げることができないからだ。
第二部 速度術の進歩
自由な海が征服され海洋帝国が生まれる。それが上陸し道路を征服すると近代国家がうまれる。速度体制がはじまる。
「西欧の人間が到底多いとは言えない人口にもかかわらず優越性をもち支配的であるように見えたのは、より速い者として現れたからである」。
時間戦争とはなにか。
一九一四年にはまだヨーロッパ参謀たちはクラウゼヴィッツ的、ナポレオン的だった。つまり短期急襲地上戦の域を出ていなかった。しかし戦争はやがて地球をすべて覆わなければならない。交通の発展が戦争を運ぶ。文明国家は際限のない暴力の行使に気づき、やがて戦争をおこなわなくなるだろう、とクラウゼヴィッツは考えた。ところがその予想は第一次大戦で崩れた。
――意図的な消耗戦は初めての消滅と消費の戦争でもあった……気の利いた交戦計画や攻撃命令は少しずつ新しい考察に席を譲った。塹壕のメートルあたり砲弾消費量、生産計画、備蓄品の残量と評価……
戦場という空間に閉じ込めてられていた戦争が、人間の時間全体を巻き込むようになる。これが全面戦争、時間戦争である。
第二部 速度制社会
速度制社会において停止は死である。内包的包囲とは、戦闘のかたちでないかたちを通して敵を包囲することである。アメリカは自ら敵をつくり、その敵を顧客とする。
「カロリング朝の行政は速度体制的国家のための「馬に乗って進む行政」となるだろう……基幹交通路は国家の形態がまさしくそこに存する場所であり国家はそこにおいて、宗教的イデオロギー、貨幣、知、対外貿易、輸送・情報手段などのあらゆるメディアを手に入れようとするのだ」。
王国の耕作地は城から見下ろせる範囲まで開拓された。
「階級闘争が展開されるとすれば、見下ろす場所の獲得をめぐって大地の上で公然と行われるだろう」。
陸戦隊はつねに自由人だった。野武士、傭兵、殺人者たちは雇われて戦い、給料未払いが発生すると要塞に篭城して抗議する。彼らを養うために国家は税の徴収を厳しくし、地方分権は崩れ、中央君主が常備軍をもつにいたった。
キャンプと収容所は、人間家畜というプロレタリアートをふたたび導入したのだった。それは「完全に飼い馴らされた身体のカテゴリー」、「器械を牽引する繁殖力の強い階級」である。軍事プロレタリアートとは、戦闘のために飼い馴らされた階級である。たとえば、戦時にオール漕ぎをさせられる奴隷など。
プロレタリアートは無知で、理性をもたない。だから彼らに公民権は与えられなかった。市民であること、参政権を得ることは、自由であり理性をもつものの権利だからだ。プロレタリアートは理性をもつ工場長のもとで働くことにより、解放される。
「労働は自由をもたらす」。
司祭と戦士は似ている。キリスト教にしろイスラム教にしろ司祭は「地獄と同時に戦争生産工場を発展させ」、「貧困を「現世嫌悪」に、また銀行政策にかけ合わす」。
――慈悲を身体の救済へと、貧困を貨幣権力へと転倒させる……
どれも中世から近代の社会システムに基づいた考察のようだが、過程をはしょっているのでほとんど理解できない。まず歴史を読まないことには納得できないだろう。
曰く、速度術社会はすすみ、時間戦争によって歴史はおわる。工学機械に人間機械は負けて、労働者はすべてプロレタリアート化、軍隊化する。というがよくわからない。
「そもそもファシズムは海や植民地からなる帝国同様、西欧速度体制の最も完成された文化的・政治的・社会的革命のひとつを表現していた」。
時間と空間を短縮するものが世界を征する。
軍隊の突撃に基づいて社会が編成される。プロイセンは障害者に対しても、運転手や密告者などの仕事を課した。
第四部 緊急事態
射出体の性能が向上すると地理的空間は消滅し、将軍たちはメンテナンス作業のなかへ消えていく。軍隊と専門家のみで国家は運営され、破壊兵器を司る唯一の国家元首がすべてを統括する。
さいごまで漠然とした本だった。
速度、唯銃主義、銃と砲とはすなわち速度である。
速度と政治―地政学から時政学へ (平凡社ライブラリー (400))
- 作者: ポール・ヴィリリオ,市田良彦
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