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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ミンドロ島ふたたび』大岡昇平

本メモ ◆日本のフィクション

 『レイテ戦記』に続けて読む。

 

 ミンドロ島ふたたび

 一九五八年、遺骨回収船『銀河丸』の出航に同乗しかつて配属されたミンドロ島を訪れる。日本人は負けたにもかかわらず豊かになっていた。ミンドロ島やレイテはまだ反日感情が根強い。そのため大岡はかつてミンドロ島守備隊であったことを隠しての旅行となった。

 従軍中に仲間が死んでも特別悲しみはしなかったという。彼らにとっては死刑執行の順番待ち程度にしかおもわれなかった。

 農業技術者は歓迎される。フィリピン社会は汚職と賄賂で運営されている。彼らは不運な世代だったので、若い兵隊は新入社員のようにあくせく働いた。

 ――いまフィリピンへ来る日本人はみなにこやかな笑顔を持っていて、腰が低い。これが同じ日本人とは思えない。ひどいことをしたのは、日本人ではなく、朝鮮人と台湾人の志願兵だった、と思うことにしている。

 なぜ日本人の過去を調べるのか。江戸時代の人間も、軍事国家の人間も、皆われわれと同種の日本人だったからである。

 旅行者を公的機関が案内するときは、都合の悪い場所をうまく避ける。

 著者はマンギャン族を訪問した。

 ――フィリピン全体がだめなことは、マニラへ着いた時、すぐわかった。それでも自分らがこんな遠いところで死ぬことが、おれたちの国と家族を守ることになるかもしれないとは思っていた。ほかに自分の惨めさの意味を見つけることは出来なかった。

 「忘れ得ぬ人々」とはユンガーのエッセイにもある。死んだ軍人たちはどれもふつうの人間である。

 ――私の戦争の経験を書いたものを読んで、「苦労したねえ」とか「苦労なさいましたわねえ」とか、いう人に、私はいつも、「それは今の普通の生活と比べての話で、その時はそれが唯一つの生活だったんですから苦しいなんぞと思ったことはありませんねえ」と答えるのを常とした。

 「生活は色々粉飾をこらしている。その粉飾をはいで、もっと簡単な関係を見つけるまで、私は失敗を続けそうである」。

 俘虜になったにもかかわらずずうずうしくふるまうのがおもしろい。此島人も米兵も、歩けないとだだをこねる大岡に手を焼いていた。

 再び訪れると、昔のことを思い出す。

ミンドロ島ふたたび (中公文庫)

ミンドロ島ふたたび (中公文庫)