うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『人口論』マルサス

 人口学の祖の主著を読む。歴史人口学にとりかかるためにも欠かせないらしい。やはり厳密な分析はまだあまり用いられていない。

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 理想主義者と現実主義者のあいだの永遠のたたかいについて。両者の視点を綜合しても、彼は人間に幸福な社会の完成可能性はないと考える。

 彼の人口についての主張……「人口の力は、人間のための生活資料を生産する地球の力よりも、かぎりなくおおきい」、「人口は、制限されなければ、等比数列的に増大する」。

 人口と食糧の生産を保つために自然は偉大な法則(人口の削減、制限)を発揮するが、これが全人類の完成を不可能にする。自然が災害をもたらすにしろ、資本家が労働価格を下げるしろ、人口に食糧がいきとどかないことは不幸なことなのだ。

 狩猟民族は食糧生産が少ないため人口増加も抑制される。よって狩猟民族は農耕牧畜民よりも不幸である。早婚制限などを考慮するには、各国の下層社会の歴史にとりかかる必要がある。

 中国の分析は不正確である。この本の書かれた当時、清朝は人口大爆発を経験していた。また、彼のことばに反して奢侈は中国文明の特質のひとつである。

 生活レベルに対する差別は、収入を省みずに子を増やすことへの牽制の役割をはたす。

 イングランドの下層民の状況について……「家族を扶養することができなくて結婚する労働者は、ある点では、かれのすべての仲間にとっての敵と考えられてよいであろう」。

 教区の施しに期待するなかれ。生産増加なしに扶養を許すことは、独立して生計をたてる労働者の生活を押し下げ、結果として幸福の総量を減少させることになる。

 

 不幸と悪徳による、避けるべき人口制限とは……「婦人にかんする不道徳な習慣、大都市、不健康な製造工業、奢侈、疾病および戦争」。

 人間の有機的完成、平等社会の実現をとなえるゴドウィン氏への反論。

 寿命が無制限に延びるという主張への反証、ユートピアの実現不可能性の主張を延々と続ける。なぜ、ここまで不死をやっきになって否定するのか。寿命が思考のための重要事項となるかもしれない。人口はつねに食糧生産水準にとどめられていたが、医療の進歩により現象に変化が生じた。

 財産制度の不可欠なこと……「すべての個人の精神は、肉体の扶養にかんする不断の不安のもとにあり、思索の分野を気ままに逍遥できる一人の知識人もいないであろう」。

 財産の安全と結婚制度が確立されると、境遇の不平等が必然的におこる。

 「人生というおおきな籤において、空籤をひいた不幸な人たちがいる」。

 しかし彼らに余剰生産物を与える義務はない。慈善に基づいた社会はほどなくして、利己心を主要発条にした社会に戻るだろう。

 資本増大により国が富むことでは、労働階級の生活は決して向上しない。人口増加率と食糧増加率の不均衡がなければ、つまり供給が永久に行き届いていたとしたら、文明の発達はなかっただろう。

 ――もっともすぐれた精神がつくられるのは、他人の観念の印象を受動的にうけいれることによるよりも、独創的思考の努力、あたらしい組合せをつくり、あたらしい真理を発見する努力によるようにおもわれる。

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 読むべき箇所は最初の人口法則の部分である。社会経済の分析に、人口と食糧の均衡という要素を加えた点がマルサスの功績だろう。また、人口の性質は人間の未来を悲観させるものだが、大切なのは改善につとめることである、と彼は主張する。

 神学との折り合いをつける終章のことば、「害悪が世界に存在するのは、絶望をうむためではなく、活動をうむためである。われわれは、それに忍従すべきでなく、それをさけることにつとめるべきである」。

 

人口論 (中公文庫)

人口論 (中公文庫)