「戦略的思考とは、相手がこちらを出し抜こうとしているのを承知したうえで、さらにその上をいく技である」。
この戦略的思考の科学がゲーム理論である。ゲーム理論は競争だけでなく協力についても示唆をあたえる点が重要だという。
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第1部 ゲーム理論の基本的コンセプト
囚人のジレンマは、スポーツやチェスのようなゼロサム・ゲームではない。敵と自分は、利害が対立する箇所もあれば、一致する箇所もある。このような状況もゲーム理論の分析対象である。
基本コンセプトとは……「作用と反作用」、「協調や犠牲を伴う行動のむずかしさ」、「長期的視野を欠いた個別決定の危険性」、「革新と模倣」、「予測不可能性の利点」など。
相互行動ゲームの場合、先を読んで現在の位置をはかり意思決定することが(逆戻り推量、先読み推量)重要である。有限回数の選択でおわるゲームには、解法がある。○×やチェスがその例だ。交渉の回数、プレイヤーの数に結果は大きく左右される(偶数と奇数)。
先読み推量適用のルール……両者のそれまでの行動が観測可能であること、戦略が途中変更不可であること。これが満たされない場合は同時進行ゲームになる。
一〇〇メートルは相手を見る余裕がないので同時進行ゲームであり、マラソンは相手の動きに反応できるので相互行動である。
同時進行ゲーム……ドラクエの戦闘のようなもの。絶対優位の戦略と絶対劣位の戦略。これらがどちらもないときに用いられるのがナッシュ均衡である。均衡とは相互が最善の選択となるような戦略ペアである。これもないとき、均衡が複数のときミックス戦略が必要となる。
第2部 基本的コンセプトの発展
囚人ジレンマの状況において協力を実現するにはどうすればよいか。このジレンマの特徴は裏切りが得をするということなので、裏切りを抑止することが鍵となる。誰が裏切ったのか、ほんとうに裏切りか(誤認の問題)。重層的な観察をもちいた反復行動戦略。
焦土作戦などの戦略活用行動とは「相手の確信や行動を自分の都合のよいように変えさせることを目的としている」。無条件の行動「わが軍は焦土作戦をおこなう」、反応ルール「抵抗しなければ命は保証する」。反応ルール(脅しと約束)と、単純な情報伝達(警告と確言)は異なる。
実行の確約、言ったことを実行させるさまざまな拘束手段について。予測不可能性とミックス戦略。最小最大の定理の証明は複雑だが、結論は「ミックス戦略の均衡の一般的特徴として、均衡点においては当事者の各々は自分の選択についてどれを選んでも同じ結果になる」。
乱数、無作為行動について。
ゲーム理論の始祖はフォン・ノイマン、発展させたのがジョン・ナッシュおよびトーマス・シェリングである。フォン・ノイマンとシェリングの著作は読むべきである。
第3部 ゲーム理論の戦略的状況への応用
協力と協調……ゲーム理論を用いたキューバ危機の分析にはグラハム・アリソン"Essence of Decision"という名著がある。制度を確立させるときは、なるべく将来を見据えておこなうべきである。一度成立された制度は非合理的であっても、変更するのにコストがかかる。「バンドワゴン」理論は、『アフター・ヴィクトリー』でも取り沙汰されていた。これを逆手に用いて、早急な変化(対立、衝突)を避けることもできる。
戦闘に勝って戦争に負けるとは、大局を見失うことの代表例である。
「自由市場は常に正しい結果を導きだすとは限らない」、これはケインズの指摘である。ゲーム理論はあらゆる戦略的思考を包括するので実際の例は多岐にわたる。
投票行動もゲーム理論の観点から考えることができる……「個々人の損得を計算すれば投票が動機づけられるわけではない」。個々人が投票に影響を与える確証はないが、それは民主主義の核のために必要である。
「多数決に伴う問題は、手続きに細工を加えることで結果を操作できることにとどまるわけではない。先を見通せる、頭の働く投票者も全員の行動を集計すると自分で罠にはまることになる」。
投票者は次善策を練ることでゆがんだ選考をおこない、結果が裏目に出ることもある。
交渉……交渉をおこなうときには待ちコストがかかるが、この間外部から利益を得られれば優位に立つことができる。
誘引(インセンティブ)……オークション、罰則、漁夫の利。
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