うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『コンラッド中短篇小説集 1』

 「潟」

 マレーの原住民が白人に自分の過去を語る。彼は酋長に仕えるものだったが、この酋長の愛人を、弟とともに掠奪する。逃走中に弟が捕えられ撲殺されるが彼は女のために見捨てた。多島海と熱帯の表現がこまかい。

 

 「進歩の前哨基地」

 アフリカの植民地ポストで働く白人たちの精神が崩壊していく話。

 「めったに気づく者もいないが、群衆の生活や、群衆の性格の本質や、能力や、大胆さは、彼らが置かれている環境の安全さへの信頼感の表明にほかならないのだ。勇気や沈着さや自信も、もろもろの感情や原理も、偉大な思想も些細な思想も、ことごとく個人にではなく群衆に属している――集団の制度や道徳の有無を言わせぬ力、警察や世論の力を、ただ盲目的に信頼する群衆に」

 ――彼らは機械になるという条件でのみ生きてこれたのだ。

 怠惰で無能な二人、カイヤール(娘をもつ父)とカルリエ(元軍人)がグレイト文明会社の前哨基地を任される。アフリカの辺鄙な川べりで二人は交易を監視することになった。蒸気船は半年後までやってこないから二人は文明から離れて暮らさなければならなかった。

 狡猾な部下、シエラレオネ(sierra leona獅子山脈)生まれの黒人マコラは、銃を所持した好戦的部族から象牙を買い取るため、白人のもっていた部下を売りはらう。この様子をみたカイヤールとカルリエはマコラの非道徳性に憤激する。

 「奴隷制はおぞましい」、しかし、彼らは自分たちもまた「進歩」の先端をかついでいるということに気づかなかった。

 「われわれは怒りや熱意をこめてしゃべる。迫害、残酷、犯罪、献身、自己犠牲、美徳などについてしゃべる。しかし、言葉づら以上の真実は何ひとつ知らないのだ。苦しみとか犠牲とかが何を意味するかは誰も知らない――たぶん、これらの幻想の不可解な意図の餌食になった者のほかは」。

 植民地経営が正統性を持っていたということを今実感するのはむずかしい。冷酷な重役たちが蒸気船で持ってくるものが、進歩と文明である。平凡な文明人たる二人にこの意味を考えることなどはできなかった。

 二人は飢えと衰弱から仲違いし、無人島物語の例にもれず殺しあいに至る。

 カルリエは右目を撃ちぬかれた。カイヤールは重役に発見されたとき、先任の十字架で首を吊っていた。

 ふだんと文の印象が異なるのは全体が地の文で統一されているからだろう。『闇の奥』よりもわかりやすい話だ。

 二人はなにもわからなかった。共食い状態になったときにようやく「物を考える」ようになった。文明から離れれば文明の言葉には用がなくなる。

 

コンラッド中短篇小説集 1

コンラッド中短篇小説集 1