『諫早菖蒲日記』も書いている作者の最初の本。日本文学にありがちなくどい文言やうっとうしい理屈が無いので読みやすかった。
入隊して三週間の新米自衛隊員が語り手となり、報告調の休日報告からはじまる。写実的な、無味乾燥に近い文章だが主人公海東二士の記憶は行ったり来たりをくりかえす。彼の生い立ちや心理にはあまりページは割かれていない。
国文にありがちな涙節、なよなよした調子がない。自衛隊の日常が細かく書かれる。
主人公海東は自分を消すために自衛隊に入ったが、訓練と生活を通じてその必要のないことがわかった。演習を終えて班の同僚とたわむれているとき、自分が彼らとまったく同一の存在であることに気づいた。消す自分などそもそも無かったのだった。