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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『色川武大・阿佐田哲也全集Ⅰ』

 怪しい来客簿

 戦中の中学校時代から終戦直後の生活までおもいでを語る。力士、同級生、教師、出版業に勤めていたときの同僚、自分の思うとおりに行かないでそのまま死んだ人間が多くいた。色川はつねに自分の原理にしたがって生活しそれに運良く成功した。

 ――笑い続けることをやめて、他の人間にすがろうとしている男をどんな顔で眺めたか。

 不意に人物の台詞を出す。思い出す、段落を気軽に変える。ある人物の生涯を追う等。典故はほとんどない。

 かれはあまり本を読んでないとのことだがこれは本当かどうか疑わしい。

 東京育ちのため大空襲下や戦中の風物がくわしく書かれている。

 彼は生まれたときに鉗子を使ったため頭のかたちがいびつになった。少年時代は自分のことを奇形児と考えていた。

 ――(人並みでないくせに)人並みであろうとするはずかしさを堪え忍ぶくらいなら、孤立、孤独の方がはるかに楽なのである。

 奇形児は誰もが「内攻して煮えたぎっている」。

 「また、電話する」は中学校からの同級生について書かれている。この男は色川が紹介した地下麻雀で負けた帰りに路上で頓死した。身内のものは、海軍兵学校に入ったことでこの男の生き方はちぐはぐになってしまったのだと言った。

 「私たちの世代のほとんどは土着性乃至特殊環境からくるもの以外に個性の持ち合わせなどないのであり、だから雑兵でなく生きるために学歴その他の武装が必要になる」。

 彼は武装を身につけていなかった。戦前から、それどころか人間のはじまったときから凡人の世界は存在する。

 ――……そっくり同じ時代を生きた、いうならば身内をはじめて失ったような悲しみが胸の中に広がった。

 ――この世は自然の定理のみ。神仏など居ない。そんなことは数千万年前の人間にだってわかっておったことで、だから人間は神を造る必要があった。ミスったときに神のせいにできるから。心の外に裁判官をおけば、ミスった代償として罰がくだされ、量刑を得て、罪が帳消しになる。

 ミスをしたら助けるものはいない。お互いにそれを許すしかない。色川曰く、ナルコレプシーの日常の苦痛感は通常の数倍である。 

色川武大 阿佐田哲也全集〈1〉

色川武大 阿佐田哲也全集〈1〉