うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『数量化革命』アルフレッド・クロスビー その2

 

 第二部 視覚化

 数量化革命を起爆させたのが視覚化のうごきだと著者は考える。

 ルネサンス期にかけて視覚重視の傾向があらわれる。新プラトン主義者マルシリオ・フィチーノは太陽は「神の視覚行動」であり「神の影」だと言った。大学では黙読が主流になり、これにより人びとはより多くを学ぶことができるようになった。また黙読は、異端の説を読むことも可能にした。このあたりのことはマクルーハンの本で読んだことがある。

 視覚化の達成を今に残すのは作曲家、画家、会計士の仕事である。

 音楽……音楽における記譜法の発明は大きなものである。西ヨーロッパでは古来より音楽は世界と密接につながるものとされてきた。音を目に見える形にすること。記譜をもたぬグレゴリオ聖歌の歌い手たちは、忘れてしまったら聴きなおすしかなかった。そのうち発明されたのがネウマ記譜法とよばれるものだが、これはまだ「数量的なルール」に基づくものではなかった。

 これが改良され譜表になった。

 「譜表はヨーロッパで最初に作成されたグラフ」なので、正規の教育を受けた者はみなこれを学んでいた。譜表を考案したのは十一世紀のグイード・ダレッツォだとされている。ある詩句の冒頭の音節の高さが順にあがっていくことに注目し、ドレミファソラシという七音音階をつくったのだった。

 やがてポリフォニーが生まれ、リズムの概念が登場する。

 「音高と音の持続時間を扱う音楽は、ピュタゴラスからアルノルト・シェーンベルクにいたる数多の理論家が認めているように、数学的な分析を高度に必要とする学問なのだ」。

 あたらしい音楽を生んだのはパリである。

 アリストテレスの影響をうけたスコラ学者は音楽のジャンルを分析した。「オルガヌム」、「ディスカントゥス」、「コプラ」などはこのとき生まれた。機械時計が発明されると、「音楽理論家たちが音楽を計量することを公認し、体系化した」。ここから西洋音楽は構築されたのである。

 アルス・ノヴァの作曲家たちは「あたかも宝石をカットするように細心の注意をはらいながら、精密な比例関係に基づく珠玉の名曲を制作した」。アイソリズム(定形反復リズム)のパターン。

 ――やがて、絶対的な時間という概念が出現した。

 フィリップ・ド・ヴィトリの新しい時間概念は中世西ヨーロッパの主流といっていい。

 「概して言えば、ある社会が現実世界をどのように認識していたかを分析するには、その社会の時間認識を調べるのに優る方法はないだろう」。

 十四世紀、ギヨーム・ド・マショーのつくった複雑な音楽はもはや耳ではついていけない。その構想は譜表を目にしてはじめて理解できるのだ。

 絵画……一三五〇年頃描かれたフィレンツェ市街の絵は群生する建築で画面はいっぱいになっている。

 「中世においては、時間がその間に生じることと同一視されたように、空間はそれが内包するものと同一視されていた。真空の可能性を否定した人びとは、空白にいかなる権威も主体性も認めていなかった」。

 ジョット、ガッディと遠近法が追求されていく。ヤコポ・ダ・ポントルモ曰く神が人間を三次元の形に創ったのは「立体的な形の方が、生命を与えるのが容易だからだ」。ルネサンスの絵画は光学的な真理と一致しており、遠近法の研究はやがて射影幾何学に発展した。

 ピエロ・デ・フランチェスカの一見単純に見えるむち打ち形図は、遠近法に基づいて床や柱の距離などをわりだすとπの整数倍になっている。遠近法により新プラトン主義の思想を表現しているのである。

 複式簿記の父といわれるルカ・パチョーリを、他のルネサンスの偉人に並べるのには一見無理があるようにもみえる。しかしデータを集積して配列・分析する手法はわれわれの思考様式に大きな影響をもたらした。会計ソフトの枠組みはいまでもパチョーリの時代と変わらない。

 ――効率を追求したこの修道士は、落ち着きのない子どものように一時もじっとしていない食料品店や国家を静止させて数量的に処理する方法を、私たちに教えてくれたのだ。

 またこのような思考は二元論を助長した。マニやアリストテレス排中律よりも、金のほうがこの二元論をずっと強化したのではないかと著者は考える。金はプラスかマイナスかであり、「決して中庸の立場をとらない」。

 

 第三部 エピローグ

 数量化と視覚化、目に見えるものとその計測結果が一致していること、これが革命の結果だった。軍隊はまだオスマントルコのほうが進歩していたものの、現実世界を認識する枠組みをつくった西ヨーロッパは世界でもぬきんでていた。

 ゼルバベル曰く現代文化の合理的特性は「正確さ、時間の秩序、計算可能性、規格性、官僚性、厳正さ、一定性、緻密な整合性、日常性」である。これはすべて視覚化と数量化とに密接なつながりがある。

 印刷の発明と、それにともなう挿絵の登場は科学革命に不可欠の要素だった。

 ヨーロッパは科学技術の頂点に達した反面、社会の不安定を招いた。宗教戦争や虐殺がたびたびおこった。

 数量化のもたらした人類への影響を考えると、なぜそれがヨーロッパで起こったかなどという質問は必要がなくなる。なぜアラビア数字を発明したのがわれわれでなかったかなどと考える人間はもういないだろう。

 

数量化革命

数量化革命