うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『中国の軍事力』平松茂雄

 中国軍の動向は変化が激しいため、この本とはすでにかけ離れている面もある。

 

 中国の将来に対する見方は両極端である。

 「中国という国は非常に両極端な面を持っていて、どちらもある一面の真実である。しかしそれは中国のすべてではない」。

 八〇年代からすでに生産量は世界有数だったが、人口が多いためGNPにすると最貧国に近くなってしまう。政治とは簡単に言えばパイの配分である、と著者は言う。

 ――一人当たりのGNPでは世界の極貧国の水準に位置する中国が、なぜ短期間に核大国に発展することができたのかといえば、それはマクロに見ると世界でも有数のGNP、主要工農業生産・鉱山物資源を集中的に配分したからである。

 

 第1章 台頭する核大国・中国

 毛沢東率いる人民解放軍(紅軍、八路軍)は遊撃線・ゲリラ戦に特化しており、「国防軍としての近代的軍隊に不可欠の近代兵器と近代軍事技術をほとんど欠いていた」。毛沢東朝鮮戦争を経て軍の近代化の必要性を痛感した。建国してからまず第一にやるべきことは安全保障の確保である。彼は通常戦力を切り捨て、核兵器の強化にすべてをつぎ込んだ。

 国防軍の近代化は、核兵器と戦略ミサイル開発よりもはるかに金がかかる。核兵器なら米国と渡り合うことができたのだった。今日の日本と中国は、ほぼ同時期に成立した。核大国と経済大国。

 先制攻撃である対兵力戦略と、それへの報復である対都市戦略、これが最小限核抑止力である。毛沢東曰く敵を「人民の大海に埋葬する」、「敵進我退、敵止我乱、敵疲我打、敵退我進」。劣勢軍のこの戦術を積極的防御という。日本軍は点と線(都市と交通線)しか確保できず、広大な面(農村)を制圧することができなかった。

 大躍進は核兵器開発のためになされた。戦略核兵器による最小限核抑止力と、前近代的な人民戦争戦略を同時並行させる「二本足路線」、「同時発展」がすすめられた。だがこの過程で中国の通常戦力の遅れが顕著になる。

 一般的に、ミサイル開発はMRBM準中距離弾道ミサイル、IRBM中距離弾道ミサイル、そしてICBMへと発展させていく。

 第一世代核兵器がおわると、より精確で軽く、小型な核兵器の開発がすすめられた(きれいな水爆)。固体燃料、移動式の発射台。その理想的なかたちは原子力潜水艦搭載核ミサイル(SLBM)である。

 「中国が大国として発言力を持つようになった背景には、核兵器を保有したことがある」。

 冷戦終結後、大量の核をもてあました米ソは、周辺諸国にも核開発をやめるよう説得させる。当時フランスや中国はまだ開発途上にあった。

 「CTBTは核兵器を廃絶するよりもむしろ、核保有国の核兵器を維持することに目的があるとかんぐられても仕方がない側面がある」。

 九八年、クリントン江沢民のあいだで、戦略核兵器の照準を相互にはずす合意が成立した。

 中国の短距離・中距離ミサイル「東風15・21」。台湾への警告演習。フルシチョフ時代のソ連は、中国を好戦的だとして批判した。

 

 第2章 通常戦力の近代化

 21世紀になろうとしていた時期でも、中国の通常兵器はお粗末なものだった。遅れは2,30年ほどといわれる。また、ロシア、カナダに次いで広い国土では、単純な国防政策が成り立たない。国土はアメリカと同程度だが、内実はまったく違う。中国には寒帯と熱帯以外のあらゆる環境が含まれている。国土の半分は人間が住めない。東西南北でヨーロッパ並に文明が異なり、北では機甲部隊、水の多い南ではゲリラ戦が適している。長江、黄河黒竜江(アムール河)、ウスリー江、これらの大河には橋がない。

 省が22、民族自治区が5、中央直轄都市が4(北京、天津、上海、重慶)。これら行政区のひとつが、日本やヨーロッパの一国家に相当する。

 「中国を一つの国よりは多様な要素からなる一つの世界と見るほうがよい」。

 陳毅曰く「中国は国連に加盟する必要なし、中国自身が国連みたいなものだ」。

 隣国は東から北朝鮮、ロシア、モンゴル、アフガニスタンパキスタン、インド、ネパール、ブータンビルマラオスベトナム。中国は伝統的に、黄海東シナ海南シナ海を中国の海であると主張している。大英帝国は中国を攻める際に辺境の非漢民族を利用した。日本は満州族を利用した。ソ連以外の小国も、同盟を組むことで中国にとって脅威となった。

 中国は成立以来数年に一回は、主権・領土・国境線・版図をめぐる紛争を行ってきた。陸海あわせてカバーする範囲が広すぎるため、一般的な通常戦力近代化は不可能である。

 鄧小平は85年から三年かけて、四百万の軍を三百万に削減した。軍縮というのは大変なことである。リストラのようなものだから軍人にとっては大問題だ。量から質への転換。合成集団軍は24個あり、中身は戦車師団、機械化歩兵師団、自動車化歩兵師団、砲兵師団、防空師団、その他ミサイル旅団、工兵旅団、航空兵大隊、電子対抗大隊。大軍区は北京軍区、瀋陽軍区、蘭州軍区、南京軍区、済南軍区、成都軍区、広州軍区の七つ。

 「国防発展戦略」とは、軍縮を行い、経済を発展させるというものである。海軍はもっとも遅れた目立たない分野だったが、近年急激に改革された。中国はその領土に比べ海岸線が少なく、排他的経済水域が狭い。よって、「中国の海」を防衛するために海軍の建設が急務となったのだった。ここにも中華思想、中華世界観のあらわれを見ることができる。

 「強力な海軍力を保有してはじめて、政治および外交手段により問題を解決し、『戦わずして敵を屈伏させる』可能性が生まれる」。

 朝鮮戦争時、ソ連からミグ15の供与を受けた中国は、世界屈指の空軍大国となった。その後中ソ対立により技術援助が打ち切られ、航空機の国内生産はおろか修理さえできなくなり、時代遅れの軍隊となってしまった。

 スホーイ戦闘機の採用、準中国製戦闘機。SU27は米国のF15に匹敵する最新鋭の戦闘機である。他に必要なのは、空中給油システムと、空中早期警戒システム(レーダー)である。

 即時対応部隊・緊急展開部隊。

 「空軍近代化でもう一つ注目される動向は、遠距離兵力投入能力を支援する空輸能力の開発である」。

 不足を補うための民間機の利用も実際に行われている。ジェット輸送機開発。ヘリコプターを中心とする陸軍装備の改革。

 台湾は地政学上重要な位置にある。

 「中国の台湾侵攻の成否は、米国の動向、言い換えれば米国が軍事的に介入するかどうかに左右される」。

 

 第3章 中国の軍事支出

 中国では装備・兵器が統制価格であり、また国防支出が他の名目で計上されていることもあり、数値の上では国防費の割合は少ない。

 「中国のような独裁的な政治権力の国家の国防費を、その金額の多寡や一人当たりの水準で論じても意味がない」。


 第4章 軍事改革と江沢民指導体制

 天安門事件で失脚した趙紫陽の後任として中央総書記になった江沢民は、同年鄧小平辞任の後をついで中共中央軍事委員会主席に就任した。江沢民の軍事体制はここからはじまった。毛沢東、鄧小平に続く第三世代が江沢民である。

 江沢民の推進した軍の「質的建設」。彼曰く、現代戦争とはハイテク技術を用いた局地戦争である。政治的混乱期にあっても中国は軍事力を増強させてきた。

 ――中国という国は常に明確な国家目標を掲げ、その目標を実現するために強い国家意思が働く国である。そのためにパイの配分が行われ、よほどの政治的混乱、経済的停滞がないかぎり、それが実施される国である。

 わが国にいると、不安定な国というものが想像しにくい。

 米国は中国を軍縮体制に組み入れることが大切だが、中国は「国際新秩序」、「中華世界の再興」を目指している。中ロ関係は緊密になっている。「中原の地」と「化外の地」、蒙古、北テキ。中華思想において世界とは中国のことであって、そのほかはない。

 「清朝最盛期に支配が及んでいた地域が中国の領土であるというのが、中国共産党および毛沢東の中国革命の根底にある歴史観であり、そこにはそれらの地域を取り戻すという一種の「失地回復主義」ともいうべき考え方がある」。ちなみに本来の領土とは東南アジア全域、ネパール、ブータン、朝鮮、ハバロフスク樺太、東北大地である。これらは列強によってすべて奪われ、その後独立した。

 「強烈な大国意識とない交ぜになった歴史的な屈辱感が醸し出すナショナリズム」。

 中国は東アジア史の中心であって、一国で対抗できる国は存在しない。戦後の中国に対する牽制は米国によってなされた。

 「中国の海洋進出は、それまで米国の軍事力によって維持されてきた既存の国際秩序に対する挑戦であり、日米安保条約にとって無視できない存在となりつつある」。

 ――敗戦後のわが国の外交政策には軍事的観点が欠落している。

 平和は軍事力の上に成り立つ。著者曰くわが国の安全保障の基本は自衛力の維持と日米安全保障体制である。中国が日米の協力を懸念するのは、中国に台湾統一の意思があるからである、と著者は言う。台湾は日本のシーレーンの要である。

 

中国の軍事力 (文春新書)

中国の軍事力 (文春新書)