うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン その4

 

 Ⅸ 歴史の天使

 社会主義国同士の戦争に話題を戻す。革命もナショナリズムも、資本主義とマルクス主義と同様、「特許権の設定できない発明品」なのである。カンボジアが革命モジュールの移転された極端な例ならば、ヴェトナムはナショナリズム・モジュールの移転された極端な例だろう。

 越南(ヴェト・ナム)は北京から押し付けられた名前である。一九世紀にはこの国名はあまり使われず、本国の者は「南越」、中国人は「安南」を用いた。一方ヴェトナム宮廷は「大南」を発明したが普及しなかった。

 ――ヴェトナム人が今日、一九世紀の満州人皇帝が考案した侮蔑的名称ヴェトナムを、誇りをもって守るということ、このことは、国民とは「多くのことをすっかり忘れている」ことだ、というルナンの格言を思い出させるとともに、逆説的に、ナショナリズムの想像力をも想起させる。

 公定ナショナリズムは国家からはじまり国家の利益に奉仕するため、革命家たちは政権を立てたあとに、彼らの打倒した皇帝が用いていたシステムを利用することが出来た。ソ連総書記クレムリンの古城に住み、中共指導者は紫禁城に住んだ。

 ヴェトナムとカンボジアの戦争は書記局の戦争であり、これに動員するために民衆ナショナリズムが利用されるにすぎない。

 

 Ⅹ 人口調査、地図、博物館

 この三つの制度が、「植民地国家がその支配領域を想像するその仕方」を形づくった。彼は、ほぼすべての白人に植民地化され、また独立をたもったシャムのある東南アジアを中心に論じる。

 

 人口調査……植民地の人口調査では、宗教による分類から人種による分類へと変化していく。人種には「シク教徒」など恣意的なものも混じっており、分類される当人たちは自分たちをそのような人種としては認識していなかった。人口調査者にとって、アイデンティティ複数あったり、政治的にあいまいであることは許されない。

 ――すべての人がひとつの、そしてひとつだけの、きわめてはっきりした場所をもっていること、これが人口調査のフィクションである。

 フィリピンとはスペインのフェリペ二世からきている。

 

 ⅩⅠ 記憶と忘却

 出身地の地名に「新」をつけて命名する習慣がある。ヌーヴェル・オルレアンはニューオーリンズになった。ニュー・ゼーラントはニュージーランドになった。チェンマイ(新しい都)などとは違い、これらヨーロッパ人の「新」都市は、本土の「旧」都市と均質な時間のなかで共存しているのである。

 ニュー・アムステルダムアムステルダムとともにある。彼らは新大陸やアジア、アフリカの辺境にいながら、本国の共同体とつながっていると感じた。ヨーロッパ移民の規模は巨大だった。一方、中国人とアラブ人の、東南アジア、東アフリカへの移住は、大規模ではあったが、計画的なものではなかった。また移民も本国となんら関係を持たなかった。彼らはクレオール共同体を形成しなかった。

 南北アメリカの独立ラッシュでは、彼らは従来のように帝国の中心をこちらに移そうとは考えず、本土と並存することをめざした。

 ベネズエラ憲法アメリカ合衆国憲法を一言一句そのまま借用したものである。フランス革命後、新たな暦を元年からはじめる計画が発動したが、数年後とりやめになり、史上はじめてソルボンヌで歴史学科が設立された。時間は均質だから数量化され、革命もその歴史の一点となった。

 

想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (ネットワークの社会科学シリーズ)

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