農奴解放前後の無政府主義者を題材にした作品。支離滅裂の青年たちが登場し、各種の犯罪行為をおこなう。
政府が目をつける危険思想家になりたかったステパン・トロフィーモヴィチの話。
自分をひとかどの人物と思い込んではいるが善良な男。彼には乳母、面倒見とでもいうべきワルワーラ夫人がいた。
――彼は、ある力強い思想に打たれると、たちまちその思想に圧倒されて、ある場合には永遠にその影響を抜け出せなくなるという、そういった類いの純粋なロシア人の一人であった。こういう連中は、思想を自分なりに消化するということがけっしてできず、ただやみくもにそれを信じこんでしまうので、その後の全人生は、彼らの上にのしかかって……
ステパン氏を中心とした、「<高度のリベラリズム>と<高度のリベラリズム>、つまり、なんの目的ももたないリベラリスト」のサロン。農奴解放により、農民の革命がはじまるのではとインテリゲンチャたちは心配したが、何も起こらなかったので、ステパン氏はこう結論づけた……われわれは時代思潮から農民に肩入れしたが、それは虱だらけの頭に月桂冠を載せるようなもの、ロシアの百姓が生んだものといえばカマリンスキー踊りくらいだ。
ロシアにはヨーロッパの思想が少し遅れて入ってくる。
「三年ほどすると、周知のように、国民精神ということが口にされ、いわゆる<世論>なるものが生まれた」。
ワルワーラ夫人の息子ニコライ・ハリー・スタヴローギンはステパンの悪影響を受け、軍隊に入るも奇行を繰り返し、あげく決闘で一人を殺し流刑になり、出所してからはペテルブルクの貧民街で暮らしていた。これが町にやってきて大騒ぎを起こすが、じつは精神錯乱だった。
「そこらのぐうたらの屑でもいい、それをどこかの鉄道のみすぼらしい切符売場にでも立たせてごらんなさい、たちまちこのぐうたらが、まるで当然の権利のように、切符を買いにくるお客をジュピター気取りで睥睨しはじめるんですよ」
ワルワーラ夫人の忌み嫌うレンプケ夫人の親戚に、ツルゲーネフがモデルのカルマジーノフという小説家がいる。
ステパン氏の息子ピョートルは大学卒業後、ペテルブルクをぶらついているという。
「あの連中は社会主義の現実性ではなくて、その感傷的な、理想主義的な側面に惹かれているんですね、言うならば、その宗教的なニュアンスとか、そのポエジーとかに……むろん、それも他人の請け売りで」
こっけいな人間が続々と集結しつつあった。
鉄道技師キリーロフ曰く、人間が自殺をしないのはまず死ぬときの痛みを、つぎにあの世を恐れるからだ。生きても死んでもどちらでもかまわない人間が真に自由な人間であり、自由な、新しい人間が誕生したとき、神はいなくなるのだという。
ロシアの中産階級が登場人物を占めている。
ワルワーラ夫人とダーリヤ、リーザ、プラスコーヴィヤ夫人、そしてリビャートキナのあいだで騒動がもちあがった。
ステパン氏の息子ピョートルの登場。彼は父親に敵意を持っていた。
若者シャートフは、ピョートルやリビャートキンらの無神論秘密結社を退会したものの、スパイと疑われていた。彼は結局神とその体現であるロシア国民を信じたのだった。
ピョートルら、無心論者、革命論者の(?)若者たちは「わたし」の住む町で傍若無人にふるまう。ピョートルは県知事レンプケと、その夫人に取り入る。シャートフに関してなにかをたくらんでいる。ピョートルとスタヴローギンは動きはじめ、シャートフの命が狙われる。
ヴィリギンスキー宅での赤色リベラリストたちの会合。若者は、野心や変革に皆あせっている。ピョートル曰く、社会主義小説を書いたり千年後の未来を夢想するか、それとも手段はどうあれ専制を打ち倒すか。病人のなかには処方箋を書いてもしょうがないものがある。
ピョートルは社会主義者ではなく、自称「ペテン師」だった。彼は社会変革期にあらわれるならず者、ごろつきの一人で、革新の気風に乗じて社会に混乱をおよぼそうとしていたのだ。彼やシガリョフ曰く、人間は絶対専制のもとで奴隷、人形となるのがふさわしい。一割の教養ある人間を残してあとは爆発させてしまえばよい。
くずどもを殺して、君主がそれを管理する……そして、ピョートルはその君主役にカリスマ性あるスタヴローギンを選んだのだった。スタヴローギンは、これがもっとも重要なのだが、美男子で、しかもそれを自覚していない。
過渡期にはくずが幅を利かせ、運動家は彼らを利用する。
ピョートルたちは、以前から取り入っていたユリヤ夫人(県知事夫人)の記念祭をぶち壊そうとする。
「わがロシアでは無数の人間が、それこそ夏の蠅のようにしつっこく、躍起になって、他人の現実遊離攻撃だけを事としている、つまり、自分以外のすべての人間を現実遊離ときめつけているんですよ」
祭りの演説でボロクソに野次られたステパンは、人間と絶交することを決めてこう捨て台詞を吐いた。
祭りは破壊され、さらに舞踏会の最中に工場の労働者三人により同時多発の放火をおこされる。翌朝、レビャートキン大尉と妹マリヤが強盗殺人をされていた。
スタヴローギンはリーザを拉致して駆け落ちするが、彼は自分がマリヤたちを殺したと見せかけて、リーザを失望させ追い出す。ピョートルもまたスタヴローギンに失望する。
五人組は分裂の徴候をみせる、レビャートキンたちを殺したフェージカは殺され、シャートフはおびきだして始末することになった。犠牲者を案内するのはエルケリ大尉、「実効的な側面は、このちっぽけな、分別に欠けた、他人の意志に隷属することだけを渇望している彼にとっては、いわば本性の要求であった」。
曰く小心者の狂信者、共同の偉大な思想の下働き。
――あの連中はわがままな子供とおなじで、自分の頭で作り出した空想以外には何も持ち合わせちゃいないんだ。そのくせ、かわいそうに、外国で作りあげた自分たちの空想にロシアが似ていないと言って、怒っている!
殺すのは、ゲスのピョートルやうすら馬鹿のエルケリらである。あまりに広い国土だと人がまばらになり、また寒さのため大きな街道しか通れなくなる、だからなかなか亡命、逃亡ができないようだ。
――信条と人間――これは、どうやら、いろんな点でまるで異なった二つのものらしいぞ……みんな罪がある、みんな罪があるんだ……
シャートフの妻マリイが出産したその夜に、彼はエルケリの手引きで殺害現場に連れていかれる。
殺人はすぐにばれる。五人組のメンバーは罪悪感に耐えられず、自白する。スタヴローギンは自殺する。こうしてみじめな結末で本は終わる。