うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『コンラッド短編集』

 「エイミー・フォスター」

 風景と町の説明からはじまる。

「あれを見れば誰だって、彼女が過剰な想像力のもたらす危険からは永久に守られていると思うだろうよ」、「我々すべての者の頭上に絶えず懸かっている不可知なるものに対する畏れから生じる悲劇が……」。

 愚鈍な娘エイミーについて語るケネディ医師の話を、主人公が聞いている。

 ――誰かドイツの文人が、知恵の光のないところに思想はない、というようなことを言ったらしいが、これが本当なら、ある程度想像力がなければ心の優しさはありえない、というのはもっと的を射てるんじゃないのかしらん。

 中部ヨーロッパから渡米するはずだった難破者の男が、エイミーの町にうちあげられる。

 この男はドイツ出身で、エルベ河河畔から汽船に乗せられてきた。イギリスに流れ着いたときにはじめて海を見たのだった。彼の故郷には三人のユダヤ人がいて、事務所をかまえていた。

「……精巧な電信機が置いてあったのは、平民どもには、自分たちのやりとりを聞かせないつもりだったのかもしれない。彼らはそれを使ってアメリカの皇帝と連絡をとるという話だった」。

 彼は家族から金を得て、なんとかよい国アメリカへ行けることになった。

 例のユダヤ人の移民事務所はインチキで「無知な農民から家や土地を騙し取ること」を目的としていた。船の中艙に押し込められていて、このドイツ人は船のこともまったく知らなかった。

 エイミー・フォスターとこの東欧人は親しくなる。

 ――彼女がどのくらい不細工な娘か、あの男はわかっていたのかしらん。それまで見てきた連中とはまったく違う人々の中に投げ出されたために、真っ当な判断ができなくなったのかもしれないな。

 わからない言葉にたいする恐怖から東欧人は病気のまま放り出され死ぬ。これはおそらくポーランド語らしい。

 

 「ガスパール・ルイス」

 南米独立戦争の物語。不運にも脱走兵として共和派軍に捕えられたルイスは、自分たち捕虜のために尽力して水を手に入れたのち、銃殺刑になる。

 ことわざは「我々の精神を驚かし、そして説得するのである……我々を驚かすのは形式であって内容ではない。つまり、諺は芸術である。安上がりな芸術である。一般的に言って諺の言うところに真実はない」。

 ロシアのことわざ、「人が銃を撃ち、神が弾を運ぶ」。

 ルイスは生きていて、王党派の没落した名家にかくまわれる。

 ルイスは膂力に秀でた、従順で勇敢なな男だった。

 ルイスはエルミニアに手紙を書かせて、最高司令官サン・マルティンと面会をおこなう。ルイスは兵を与えられ、リナレスのスペイン軍火薬庫を急襲し軍功をたてる。

 ――ああ、悲しいかな、senoles! あの闘いは、その本質において英雄的な闘いのはずでしたが、両陣営とも、残虐さによって血塗られていたことは紛れもない事実です。

 捕虜はすぐに殺されたが、ルイスはすべて逃がしたのだった。ルイスはこのエルミニアにそそのかされて、南方軍事司令官の位を手に入れながら、民政長官を殺して反乱をおこしてしまう。妻エルミニアはポンチョと帽子をかぶり、魔女、陰の司令官と(インディオからも)おそれられた。

 ――インディアンの大軍はすでに砦の攻撃にかかっていました。彼らは騎馬の隊列を組み、長いチューソ(矛のついた長い槍)を引きずりながら襲いかかってきました。

 メンドサ州の独裁者カレーラス、それにインディオと手を組んだルイスは絶望的な抵抗をおこなう。

 

 「無政府主義者

 平凡な機械工が、酔って政府への文句を言ったばかりに、アナーキストから同志(コムレイド)に認定されて転落する物語。無政府主義者は職工が多くて、だからやたらと爆弾を使う。流刑地におくられ、そこでの反乱に乗じて脱出し、最後にアナーキストを殺して脱走に成功する。

 

 「密告者」

 X氏は政府批判のアジテイターであり、著作で得た金で奢侈の生活を送っている。彼はかつて無政府主義者たちの地下生活に潜入していたことがあった。

「怠惰で利己的な有閑階級の連中は、自腹を切ってでも、騒ぎが起こされるところを見たいんですよ。彼らの生活は、せいぜいポーズとジェスチャーですから、本物の運動のもつ危険を認識することも、まやかしでない言葉の危険を見通すこともできません……デマゴーグたちは、声高に、そして繰り返し叫びさえすれば、彼らが非難の対象にしている階級から何がしかの支持が得られるのですから」。

 ――回心した無心論者のケースは、お聞きになったことがおありでしょう? そういった連中は、えてして、危険な狂信者になり変わるんです、三つ子の魂百まで、とでも申しましょうか。

 教授の原型らしき人物が登場する。解説の通り、人づての話なので、教訓にしているのかよくわからない。

 

 「伯爵」

 十九世紀のナポリにはカモッラ党というマフィア(秘密結社)が跋扈していた。ボヘミア貴族の伯爵はこのマフィアの党員(学生、名家の若者)に因縁をつけられ、それまでの洗練された人生を汚されたと感じ、故郷に帰る。ヤクザに絡まれて平穏な生活を壊された人間を描く。

 ――彼の人生は、静かな心地よいものだった。人生の喜びも悲しみも、結婚、出生、死といった自然の流れによって定められ、上流階級の慣習によってあらかじめ規定され、国家によって守られたものだったに相違ない。

 

 「武人の魂」

 ナポレオン戦争時のロシア軍の話。そこそこおもしろい。モスクワ遠征については『一八一二年の冬』という本がおすすめだという。

 

コンラッド短篇集 (岩波文庫)

コンラッド短篇集 (岩波文庫)