Ⅳ章 登場人物への機能の割り振り
「機能が登場人物にどう割り振られているかという問題は、検討しておく必要があります」。
行動領域というものがあり、それらを合わせたものが機能の担い手たちと対応する。
敵対者(加害者)の領域は、加害行為A、主人公との戦いH、追跡Pr、をふくむ。
贈与者(補給係)は予備交渉D、贈与Fをふくむ。
助手は主人公の空間移動G、不幸あるいは欠如の解消K、追跡からの救出Rs、難題の解決N、変身Tをふくむ。
王女(探し求められる人物)とその父との行動領域は、難題を課すことM、標をつけることJ、ニセ主人公の正体を暴露することEx、認知・発見Q、加害者の処刑U、結婚Wをふくむ。
派遣者はただ主人公の派遣Bのみをふくむ。主人公は出立C←、贈与者への反応E、結婚Wをふくむ。
――重要なのは、登場人物たちが主人公にとってもつ意義と出来事=筋の展開にとってもつ意義という観点から評価され規定された、行為そのものです。
登場人物の属性とは、外面的な性質すべての総和のことである。昔話にその彩りを与えるのはこの属性である。機能と属性を調べると、そこにある抽象的観念が横たわっていることがわかる、とプロップは述べる。
贈与者の与える課題は、叙事詩的な遅滞(retardation)の技法である。障害が与えられ、それを克服することで手段を手に入れ、それを用いて目的を達成する、という流れ。
彼はこの贈与を、「死あるいは死者たちの国への往還についての観念と結びついた、イニシエーションの儀式」をあらわしているとする。王女の与える難題(試練)は、「主人公は、呪具・呪力なり、呪力をもった助手なりを所有していて、はじめて、これに耐えうる」、受けねばならぬ試練を通過したことを示すものだとする。
王女はたいてい、遠い遠い国、「長寿と不死とを可能にするモノのある別の世界」の住人である。発生の仕方を見ると、昔話は神話である。昔話と神話・儀礼との関係。
Ⅸ章 纏りのある全体としての昔話
ゲーテの植物学に関する引用がよくされる。これから、第二部、個々の昔話を分析してく過程に入るという前置きである。
「昔話」とはなにか……加害A、欠如aからはじまり、中間の機能を経て、結婚Wなり何なりの結末の機能でおわるものを指す。この種の展開を「行程(単位説話)」と呼ぶ。一篇の昔話に複数の行程が入ることもある。この、複数行程の分析の方法を述べる。
まず、ひとつの行程が終わってから次の行程に行くパターン(魔王から大魔王へ、など)。第二の行程が第一行程の挿話としてはめこまれる場合(入れ子構造)。話が同時に二種類の加害行為からはじまることもある。主人公が殺されて、さらに呪具も奪われる、など。
二つの行程が、共通の結末をもつ場合。二人の主人公が登場する場合。「話が二つの行程から成り立ち、しかも、一方の行程が、主人公にとって肯定的な形で終わり、他方の行程が、否定的な形で終わる場合」、これは一篇の昔話であると決定できる。二匹目のどじょうを狙ういじわるばあさんの話など。
行程全体が三度繰り返される場合、二人の兄は失敗するが、最後の兄は成功するなど。
最後に、昔話を構成する五つの要素をまとめる……1登場人物の機能、2結びの要素、3動機づけ、4登場人物の出現方法、5登場人物の属性
個別の昔話には、機能の倒置や、含まれていない機能が見られるが、綜合的にはひとつの共通の流れを形成している。
第一部の結びに、ヴェセロフスキーの言葉。
――時間というこの偉大な単純化の装置のうちを通過するならば、複雑な現象も、時間の綜合作用に影響されて、点の大きさにまで縮小され、その線も、私たちが今日遥か遠い過去の作品を眺めた際に私たちの前にひろがる線と、ひとつに合わされる日がやってくるであろう。
形態学というものがいつか近代・現代文学にも適用できる未来がくるはずだと彼は言う。
第二部 分析の実例
Ⅰ章 八つの類型
「闘い」/「勝利」、「難題」/「解決」の機能を経て展開する単一行程の昔話。単一行程だが、HIもMNも含まない話……姉弟殺しの昔話(魔法の笛)。ひとつの発端をもつ二つの行程からなる話で、敵対者との「闘い」/「勝利」を経て展開する話……さらわれた主人公たちを、後から本物の主人公が救出しにゆく。
「闘い」「勝利」の行程と「難題」「解決」の行程、二つの行程からなる話。
- 作者: ウラジミール・Я.プロップ,北岡誠司,福田美智代
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