うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『昔話の形態学』ウラジーミル・プロップ その1

 構造主義の真祖といわれるプロップの本。

 第一部は方法について、第二部は分析の実例をおこなっている。

 

 第一部 方法と一般的結論

 民間説話の領域においてその構造上のきまりを確立するのが形態学である。本書は昔話の形態学をできる限り一般向けにやさしく書いたものである、という。

 

 Ⅰ章 問題の歴史

 プロップは構造の分析を、「共時的な構造論」と言う。

「昔話がどこから発生し〔どう変形してきて〕たのかという問題を解明するに先だって、昔話とは何であるのかという問題を解明しなければならないことは、明白なことです」。

 当時の研究状況への批判がつづく。

 まず昔話を分類しなければならないが、従来の〔奇蹟/世間/動物〕という分け方では不十分であると彼は言う。形式上の特徴、構造上の特徴に基づいた分類に切り替える必要がある。昔話の特性に、「ある話の構成部分が、なんの変更も加えられずに、別の話のなかに移されうる」というものがある。ヴント、ヴォルコフなどによる既存の分類の誤謬を指摘していく。結局、「細分した構成部分に拠る研究が、正しい研究の仕方だからです」。分析にあたって、分類とは初期のきわめて重要な段階のひとつである。

 構造の記述について先駆者であるのがヴェセロフスキーの筋、モチーフ論である。曰く「話の筋とは複数のモチーフの複合である」。筋は創造・結合の営為である。プロップは、彼の提示するモチーフをさらに純化できると考える。

 ――昔話研究のすべての問題は、最終的には、もっとも重要な問題、しかも、これまで解決されてはいない問題――昔話は地球上のどこででもなぜ似ているのかという問題――の解決に寄与しなけれなならない。

 面白くない仕事がやがて一般性のある面白い理論へ到達することになる。

 

 Ⅱ章 方法と資料

 本書は魔法昔話を扱うが、これは特定の下位ジャンルとして実在する。物語の筋には定項(コンスタント)と可変項(ヴァリアブル)がある。可変項は登場人物名などで、定項は人物の行為(機能)である。

「この帰結は、私たちに昔話を、登場人物たちの機能〔という定項〕に基づいて研究しうる可能性をあたえてくれます」。

 「なにを行うか」が大切である。誰が、や、どのように、は副次的な問題にすぎない。機能は別の人物へ移されていく、よって機能の数は少ないが、人物の数は厖大である。まずこの、機能の規定からはじめなければならない。

 物語のなかにおかれる位置によって、同じ行為でも意味が異なることがある。逆に、異なる行為でも、おかれる位置がおなじなら同じ意味をもつことがある。よって、機能をこう定義する……「登場人物の行為で、しかも、筋=出来事全体の展開過程にとって当の行為がもちうる意義〔位置〕という観点から規定された登場人物の行為」。

 出来事の継起順序にはそれなりの法則がある。

「扉をたたきこわす前に、強盗に押し入ることは、できません」。

 よって「機能の継起順序は、常に同一である」。

 ちなみにこれはフォークロア(民間伝承)の話であって、説話全般とくに人為的につくられた話の問題ではない。

 三十一の機能はすべて継起順につながる。「魔法昔話は、単一の類型〔原型〕に属している」。資料は、「アファナーシエフの昔話集」から、魔法物語一〇〇篇を用いた。

 

 Ⅲ章 登場人物の機能

 ここでは具体的な機能の解説、そしてその順番に従ってギリシャ文字が振られる。さらにそれを分類する定義がある。

「すべての機能を〔線状的に〕並べてゆくと、一篇の首尾一貫した話となります」。

 ここでようやく有名な31の機能が出てくる。

 昔話はふつう、導入の状況から始まる。家族の成員の列挙や、主人公の名乗りなど。これは機能ではないが重要な要素で後に詳しくとりあげる。

 1 家族の成員のひとりが家を留守にする 〔留守〕β

 年長の者が留守にする。強化されると両親の死となる。年少の世代が留守にすることもある。

 2 主人公に禁を課す 〔禁止〕γ

 なになにをするな、と言われたり、忠告されたりすること。外出・留守なしに禁止が課されることもある。命令・提案もここに入る。「~してこい」など。

 導入の状況ではしばしば幸福があらわされるが、それはその後の災厄と対照になっている。留守と禁止が、不幸・災いを準備する。

 3 禁が破られる 〔違反〕δデルタ

 γの禁止とこの違反は対を成していることが多い。

 ――ここで、話の中へ新しい人物が登場します。この人物は、主人公に対する敵対者(加害者)と呼ぶことができます。

 4 敵対者が探り出そうとする 〔探り出し〕εイプシロン

 子供たちの居場所をさぐったり、貴重品のありかを探したりすること。犠牲者が敵対者に問いただす形もある。また、他者を通して探り出すこともある。

 5 犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる 〔情報漏洩〕ζゼータ

 敵対者が回答を得る。εの探り出しと対応するが、軽率な行動から情報漏洩だけが起こる場合もある。秘密を漏らす、という形をとることが多い。

 6 敵対者は、犠牲となる者なりその持ち物なりを手に入れようとして、犠牲となる者をだまそうとする 〔謀略〕ηイータ

 敵対者なり加害者はまず姿を変える。その後、1説得によって働きかける 2直接呪いをかける 3欺いたり乱暴したりの手段を使う

 7 犠牲となる者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける 〔幇助〕θ

 主人公は敵対者に同意する。

 「禁止は、常に、破られるのに反し、だまさんがためのすすめは、逆に、常に受け容れられ実行される、と言えます」。

 呪いによって眠ってしまうなどもここに入る。謀略なしに成立することもある。突然主人公が眠ってしまい、敵対者が仕事をしやすくなる、など。

 8 敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷を与えるなりする 〔加害〕Α

 この機能は重要である。これによって昔話の動きがはじまるからである。それまでのものはこの加害のための下準備に過ぎない。よって、これ以前を「昔話の予備部分」と呼ぶことができる。加害行為はきわめて多種多様である。誘拐する、呪具を略奪する、種子を奪うまたは台無しにする、昼の光を奪う、ほかの対象の略奪を行う、など。

 身体に危害を加えたり、犠牲者を突然消してしまう、犠牲者を要求したり、おびきだしたりする、誰かを追放する、誰かを、海に投げ込めと命令する、誰かに/何かに魔法をかける、すりかえを行う、殺せと命じるか、または直接犠牲者を殺す。

 この加害がない場合もあるが、そのときは欠如からはじまる。よって欠如は略奪の一種であると考えられる。

 8―a 家族の成員のひとりに、何かが欠けている。その者が何かを手に入れたいと思う 〔欠如〕a

 人間一般、とくに花嫁や友人が欠如している場合。嫁探しをしたい、など。呪具・助手の欠如。珍しい不思議なものが欠けている場合、金の羽の鴨、摩訶不思議なものなど。呪具と不思議なものの区別からすると、呪いの効果というのは重要な意味を持っているようだ。金銭や生活手段の欠如。

「話の中間部にあるはずの要素が、時によると、話の初めに移されるということもあります」。

 しかし、Aやaは「魔法昔話というクラスに属するすべての昔話に義務的な要素であり、それ以外の形の発端は、魔法昔話には、ありません」。

 9 被害なり欠如なりが〔主人公に〕知らされ、主人公に頼むなり命令するなりして主人公を派遣したり出立を許したりする 〔仲介・つなぎの段階〕B

 探索者型の主人公が、消えたものを探しに出立する。さらわれたり追い出されたりした者が出立する場合、被害者型主人公という。ここでは出立というのが機能の第一である。

 「死ぬ運命にある主人公が、ひそかに解放される」、これは殺した証拠をでっちあげて主人公を逃すパターンである。
 10 探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出ることを決意する 「抵抗開始」C

 11 主人公が家を後にする 「出立」←

 探索者型の主人公は探索を目的として出立するが、被害者型主人公の出立は、「さまざまな事件が待ち受けている、探索とは無関係の旅の開始を示します」。

 以上のABC←は、「昔話の発端を形づくるものです」。

 ここで贈与者(補給者)というものが登場する。ふつう偶然の出会いが用いられ、主人公は手段(呪具など)を与えられる。

 12 主人公が〔贈与者によって〕試され・訊ねられ・攻撃されたりする。そのことによって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備がなされる 「贈与者の第一機能」D

 贈与者が主人公を試す、主人公に挨拶し、いろいろ訊ねる、死にかけの者や死者が自分に尽くしてくれるよう頼む、捕われている者が自分を解放してくれるよう頼む、主人公に容赦してくれるよう頼む、取り合いをしている者たちが、獲物の分配をしてほしいと頼む、このような、道中での出会いをとりもつのが贈与者の機能である。

 試練の機能もまたもつ。子猫がいじめられているのを主人公が目撃する、など(浦島太郎)、敵意をもつものとの戦い、「主人公に対し、呪具が示され、交換しないかと言われる」。

 13 主人公が、贈与者となるはずの者の働きかけに反応する 「主人公の反応」E

 贈与者に返答すること。主人公が贈与者をだますこともある。敵意あるものが用いようとした手段を、主人公が用いる(暖炉をのぞいてごらん、まず見本を見せろ、そして突き落とす)。

 14 呪具〔あるいは助手〕が主人公の手に入る 「呪具の贈与・獲得」F

 

 「魔法昔話の主人公とは――話の発端では、加害者の行動から直接に被害を受けた(か、なんらかの欠如を感じている)人物〔被害者型〕か、あるいは、他の人物の不幸・災いなり欠如なりを解消することに同意した人物〔探索者型〕である」。

 主人公の意志が、話の基軸となる。

 15 主人公は、探し求める対象のある場所へ、連れて行かれる・送りとどけられる・案内される 「二つの国の間の空間移動」G

 他の国・よその国は「水平軸上では、ひじょうに遠いところにあり、垂直軸上では、ひじょうに高いところか、あるいは、ひじょうに深いところにあるといえます」。このGをとばしてすぐよその国につく場合もある。

 16 主人公と敵対者とが、直接に闘う 「闘い」H

 化け物とのたたかい、敵対者との競争(力比べなど)。

 17 主人公に、標(しるし)がつけられる 「標づけ」J

 

 戦いの最中に傷を負う、または指輪かタオルを手に入れる(指輪と帯は力の象徴であるという)。

 18 敵対者が敗北する 「勝利」I

 19 発端の不幸・災いか発端の欠如が解消される 「不幸・欠如の解消」K

 A「加害」と対をなす。探していた対象を、略奪する。対象が取り戻される。

 ――七人のセミョーンが、王女を手に入れようとする。盗人が王女を略奪してしまう。王女は、白鳥となって飛び去る。弓使いが白鳥を射落とす。もうひとりの者が犬の代わりとなって落ちた白鳥を水の中から取り出してくる、などなど。

 対象を餌で釣って手に入れる。呪具を用いることで、貧困の状態が解消される(金の卵、魔法のテーブル掛け、銀の馬など)。対象を捕える(農業にかかわる略奪)。魔法をかけられていた者の魔法が解ける。殺された者が生き返る。

 20 主人公が帰路につく 「帰還」→

 「出立」←と同じ形でおこなわれる。「「帰還」は、すでに、空間を征服した、ということを意味する」。遁走の性格をもつ場合もある。

 21 主人公が追跡される 「追跡」Pr

 まだハッピー・エンドではない。追跡者が主人公を追って飛ぶ、追跡者が犯人を引き渡すよう要求する、動物に変身しながら主人公を追う、主人公を誘惑するようなものに身を変えて、主人公の道を妨げる、など。最後の危機というところか。

 22 主人公は追跡から救われる 「救助」Rs

 この救助で終わる昔話はとても多い。このような話のひとまとまりを〔単位説話〕という。加害行為がまたおこり、あたらしい話がはじまることもある。たとえば、家に帰るとイワンの兄がイワンを殺す、またはものを奪う、など。

 23 主人公がそれと気づかれずに、家郷か、他国かに、到着する 「気づかれざる到着」O

 他国の王の食客になる、職人に弟子入りするなど。

 24 ニセ主人公が不当な要求をする 「不当な要求」L
ニセ主人公(イワンの兄や、他国の将軍・水運びなど)が「自分こそ〔主人公が手に入れたものを〕獲得した者に他ならないと僭称し、将軍は、自分こそ蛇を退治した者であると僭称します」。

 25 主人公に難題が課される 「難題」M

 昔話ではこの機能が好んで使われる。この難題は多種多様である。

 26 難題を解決する 「解決」N

 27 主人公が発見・認知される 「発見・認知」Q

 主人公は、標・傷痕、指輪、タオルなどによって発見される。「標づけ」Jと対応する。

 28 ニセ主人公あるいは敵対者(加害者)の正体が露見する 「正体露見」Ex

 29 主人公に新たな姿形が与えられる 「変身」T

 容姿端麗になる、すばらしい宮殿を手に入れる、新しい衣裳を身に着ける、「合理化された形・ユーモラスな形」というのは珍しい。

 ――たとえば、狐がワジンカを王様のもとに連れてゆき、どぶに落ちた、といい、着物を下さるよう願い出る。狐に王の衣服が与えられる。クウジンカが王の衣裳を着てあるくと、王子と間違われる。

 「富と美とのいつわりの証拠が本物の証拠と受けとられている、というふうに定式化」される。

 30 敵対者が罰せられる 「処罰」U

 射殺される、追放される、引き回しにされる、自殺するなど。容赦される場合もある。

 31 主人公は結婚し、即位する 「結婚」W

 これが三十一の機能である。

「これらの機能の総てを順次読み通すならば、ある機能が別の機能から、論理の必然性と芸術上の必然性にしたがって、派生している、ということが見てとれる」。

 機能総ては単一の基軸に属している。

 対をなす配置……「禁止」と「違反」、「探り出し」と「情報漏洩」、「闘い」と「勝利」、「追跡」と「勝利」など。

 ABC←は、発端というグループをつくる。DEFは「予備試練」(メレチンスキー)。

「個々の昔話にとって、この図式は、計器に当たります」。

 

 機能はその結果によって決定すべしという原理。行為が一緒に見えてもその結果により、たとえば「難題」と「選択」は分別される。または二重の機能をもつ場合もある。

 さまざまな機能をつなぐものとして伝達というものがある。欠如を知らされたり、探索の動機を与えられたりなど。

 

昔話の形態学 (叢書 記号学的実践)

昔話の形態学 (叢書 記号学的実践)