うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『レトリックと人生』レイコフ、ジョンソン その1

 「メタファーは伝統的に哲学においても言語学においても真摯な関心が払われることなく無視されてきた」。

 むしろメタファーが、理解ということを説明する鍵であると著者は書く。西洋哲学の前提を崩すこと……「とくに、それは客観的真実あるいは絶対的真実が存在する可能性を否定し、それにまつわる多くの前提を否定することを意味していた」。

 真実よりは「人間の経験や理解が中心的役割を果たしている」という提示。

 30の章に分かれていて、ひとつひとつはそれほど長くないようだ。

 

 1 生活の中のメタファー

 「言語活動のみならず思考や行動にいたるまで、日常の営みのあらゆるところにメタファーは浸透しているのである」。

 現実はすべて概念体系によって規定される。この概念がまさに大部分メタファーで成り立っているのである。

 ARGUMENT IS WAR議論は戦争である、というメタファーをもとに、議論について述べるときにはさまざまな戦争の言葉が用いられる。これはただ「戦争用語を用いて議論のことを語っている」だけではない。

「議論の中でわれわれが行うことの多くは、部分的ではあるが戦争という概念によって構造を与えられているのである」。

 語る、つまり詩的に表現するというのでなく、実際にこのメタファーに従って行動しているということだ。議論をダンスととらえる文化があったら英語圏の議論とはまったくちがったものになるだろう。

 ――メタファーの本質は、ある事柄を他の事柄を通して理解し、経験することである。

 メタファーは単に言葉遣いだけの問題ではなく、「人間の思考過程thought processesの大部分がメタファーによって成り立っている」。

 

 2 メタファーと概念の体系性

 「戦闘という概念がもつ概念網(ネットワーク)の一部が、議論という概念を部分的に特徴づける」。

 時は金なり……これもまた体系をつくっている。How do you spend your time these day? など。

 英米文化にとって時は貴重であり厳密に数量化されている。近代になって生まれた概念であり、普遍的なものでない。

 含意関係とはなにか……「Time is money」は「Time is a limited resource」を含意し、それが「time is a valuable commodity」を含意する。

 

 3 メタファーの含意

 ある面を際立たせ、ある面を隠すこと。議論の協調的側面は戦争の概念に覆い隠されてしまう。言語について英米人はこう考える……考えは物であり、言語表現は容器であり、コミュニケーションはそれを送ることである。これを導管conduitメタファーと呼ぶ。たとえば「「言語表現は意味を盛る容器である」という側面は、言葉と文は、文脈や話し手とは無関係にそれ自体として意味をもっているということを含意している」。文脈、発話者というものを抜きに考えることはできない。

 メタファーはあるものの一部をあらわすもので、決して全体をあらわすものではない。もし全体ならそれは同一ということになってしまう。時間に銀行はない(『モモ』)。メタファーからなる概念が完全に重なることはない。

 ――他方、メタファーから成り立つ概念は、字義通りにものを考えたり話したりする範囲を越えて、いわゆる比喩的で詩的で多彩な、あるいは空想に富んだ思考や言葉遣いにまで拡張することができる。

 以上が、「構造のメタファー」structural metaphorsである。

 

 4 方向づけのメタファー

 「ある概念が他の概念に基づいて構造を与えられているのではなく、概念同士が互いに関係しあってひとつの全体的な概念体系を構成している」ものを、「方向づけのメタファー」orientational metaphorsと呼ぶ。up-down, front-back, on-off, deep-shallow, central-peripheral中心と周辺、など。これらは肉体的および文化的経験から規定される。

 英語では、happy is up、幸せは上である。昇る、上昇。肉体上の基盤では、元気なときはまっすぐな姿勢、元気がなければうなだれる。conscious is up, unconscious is downこれはget up, He rises, fell asleepなど。起きていれば立ち上がり、寝るときは横になるので。他に、力をもつものは上:支配されるものは下、予知できる未来は上。自分が進む方向に物が見える、遠近法で徐々に近づき、大きくなってくる、上に上がってくるように見えるので。

 かなり用例が多くて、鱗が落ちる……rational is up, emotional is down

 われわれの根本概念の大部分は空間関係づけ(spacialization)のメタファーによって系統だてられている。Good is upは良いことにまつわるさまざまな概念に波及する。

 high-energy particle高エネルギー粒子は、なぜ「高いhigh」なのか。これはmore is up「より多きは上方」というメタファーに基づいているからだ。純粋に観念的な概念は、大体こうして、肉体的・文化的基盤をもつメタファーに基づいている。

「垂直性という概念がわれわれの経験の中にさまざまな異なった形で入っているのである」。

 共通の経験を基盤にすることもあり、そうでないこともある。「未知は上、既知は下」などは、good is upとは異なる系統にある。

 

 5 メタファーと文化の一貫性

 ――ある文化における最も根本的な価値観は、その文化で最も根本的な概念に構造を与えているメタファーと一貫性をもっている。

 現実に存在し深く浸透している価値観というのは、メタファーから成る体系と首尾一貫している。The future will be betterは、The future is up, good is upと一貫している。だが価値観は完全にひとつではないから、さまざまなメタファー同士が矛盾し、衝突する。good is upよりもmore is upが優先されるため、犯罪率なども上昇するupのである。

 どの価値観が優先されるかは、文化内文化(サブカルチャー)や個人の問題である。
「均衡や求心性balance and centralityということが、われわれの文化におけるよりもはるかに重要な役割を果たしている文化もある」。

「受動的であるほうが、能動的であるよりも価値が重いとされている文化もあるのである」。

 上下、内外、中心周辺などはどの文化でも見られるが、その価値付けは千差万別である。

 

レトリックと人生

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