ホンダレーシング部門の元締めとして働く著者が、F1業界を詳しく説明する。F1は海外では、日本における野球と同じように、試合そのものだけでなく業界をも含めた広範な関心を集めるスポーツである。
日本におけるモータースポーツはまだ発展途上であり、これからさらにメジャーになっていってほしいと著者は考えている。
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F1の利害関係は多岐にわたる。まず、チームは一般に金食い虫である。ではなぜ参戦するのかといえば、F1チーム、参加権(グリッド権)を売却することでキャピタル・ゲインを得るためである。
コンストラクター(車体製造者)は技術者の育成や会社の一体化、市販者への技術移転のためにF1に参戦する。国家はサーキットをつくりF1を誘致することで、オリンピックに匹敵する経済効果を得ることができる。
またタバコ業界を含めた企業は広告料を払うことで車体やウェアにロゴを掲示する。これらがF1のステークホルダー(利害関係者)である。
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F1を運営する組織がFIAとバーニー・エクレストン率いる企業集団であり、F1のルールはFIAの下部団体であるF1委員会が定める。FIAの現会長マックス・モズレーは、かつての英国ファシスト議員、オズワルド・モズレーの息子である。
バーニーはF1チーム設立から、F1の総元締めにまで上り詰めた実業家であり、細かいところまで彼が管轄する。
F1に集まる金は、推定では30億ドルといわれる。チームのスポンサー収入源はタバコ会社だが、広告自粛にともない、今後は自動車メーカーがよりF1にコミットメントしていくことになるという。ちなみに、タバコ産業は中国・インドといった未開拓市場をもつため将来は明るい。
1980年制定されたコンコルド協定が、F1の規則を定めている。ここからが近代F1のはじまりである。
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近年は、経費削減を推進するF1守旧派と、メーカー連合との争いが激しくなっている。モズレーを頭領とするFIAは、経費を削減し、より公平な(等質な)コンディションでの競争を望む一方、メーカー側はそれを開発に対する歯止めにしてしまうと訴える。
著者はよきF1の未来のため、運営の透明性、説明責任、開示を切望する。
F1ビジネス―もう一つの自動車戦争 (角川oneテーマ21)
- 作者: 田中詔一
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