うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『歴史人口学で見た日本』速水融

 歴史人口学ははじまってからまだ日の浅い学問である。著者がこの学問を知ったのは偶然だが、その独創性に魅入られたのだという。フランス、イギリスでは教区簿冊とよばれる資料を用いて家族復元をおこなっているが、これにヒントを得た著者は宗門改帳を用いることで、日本において歴史人口学研究を進めた。

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 宗門改帳を分析することでいくつかの意外な結果がみられる。ひとつは、人口推移が西高東低ということである。関東は停滞しているのに対し、近畿以西は人口が増加していることが判明した。

 もうひとつは、北関東と近畿における人口減少である。京大阪江戸という世界でも稀な大都市を抱えながら、なぜ人口が減っていたのだろうか。著者は「都市アリ地獄説」という仮説を立てて説明する。ヨーロッパでも見られた現象で、インフラや衛生設備の整備がされていない近代以前には、都市は人間の寿命を縮める場所であったというのだ。

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 日本における人口統計のはじまりは杉亨二(こうじ)である。彼は蕃書調所で働いていたときにフランスの人口調査書を読み、いたく感動する。彼は五稜郭のたたかいもそっちのけで静岡の人口統計にとりかかり、やがて日本の国勢調査の基礎をつくりあげた。

 明治期の統計資料にふたたび光を当てることで、大正における死亡率危機mortality crisisと、日本における人口転換demographic transitionをうきぼりにすることができる。

 「近代以前の社会の、出生率も死亡率も高い状態から、出生率も死亡率も低い、いまの日本の状況に変わっていくことを」人口転換という。

 明治期から日本の死亡率は低下をはじめるが、大正のある時期にだけ再び高くなっている。地道な調査の結果、これはインフルエンザ(スペイン風邪)の流行だということがわかった。

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 ほかにも各都市の人口の推移や、歴史人口学の各国の現状、日本における研究など、広い分野に触れている入門書である。

 

歴史人口学で見た日本 (文春新書)

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