うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Youth』J.M.Coetzee

 祖国南アフリカから脱出しようと試みるさえない主人公が、看護婦にもてあそばれるところから本書ははじまる。黒人政策をめぐるデモと弾圧で、数学を学んでいた彼は幻滅し、ロンドンに向かう。ここでIBMに採用されるが、長時間労働と孤独に苦しむ生活を送る。

 随所に作家や詩人の名前が出てくるが、詩人はパウンド、エリオット、作家ではF.M.Fordなどを好んだようである。プログラマーとして激務に追われる自分を省みて、現代の作家もみな似たようなものだった、エリオットは銀行員、カフカは保険会社で勤めていたのだ、と安堵する場面は真実味がある。

 彼はロンドンの若者のなかでは浮いており、女はみな彼を一顧だにしないか、嫌悪の目で見つめるのだった。流行の服装を着ることもできず、ロックンロールやダンスクラブにも入っていけずに、孤独な生活を続けていた。詩が好きで詩人を目指す彼は時代遅れの文学青年といった趣が強い。

 この当時、亡命してきたヨシフ・ブロツキーがラジオ放送をおこなっていたようだ。

 当時のイギリス、また世界情勢についても言及が多い。六十年代、人種政策のために南アフリカは世界の中でも悪名高い国だった。彼はいつになったらイギリス人として認めてもらえるのだろうかと考えるが、そもそもイギリス人とはなんだろうか。彼は「イギリスは二つの国民の祖国である」と書く、すなわち中流階級と労働階級である。

 彼はロシアにたいする攻撃を悪行と考え、イギリスの国策、はては冷戦についてはっきりと否定的な見解をあらわしている。

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 みじめなかっこうでIBMを退社してから、彼はしばらく誰とも話さない日がつづいた。一言も口をきかなかった日には、カレンダーに"S"のしるしをつけていた。

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 ベケットの小説も彼に大きな影響を与えたようだ。

 しばらく芸術から遠ざかった生活をしたあと、彼は書き出そうとする。しかし、白紙の前で苦しむ。彼は書くことを恐れていた。自分の作品を叩かれるのが怖かったのだ。

 結局、彼の書きはじめる瞬間にはいたらず物語は終わる。

 

Youth

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