うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『スペイン戦争』斉藤孝

 王政とナポレオンの襲来を経た二十世紀、スペインはヨーロッパの後進国になりさがっていた。ブルボン王朝は肉体的・人格的な欠陥者を次々と生み出し、教会が最大の地主であり、国富の三分の一を所有していた。軍隊は将校が異常に多く、貴族と地主の就職機関と化していた。

 国民の半数は文盲で、教育もまともに受けられず、十六世紀の農民と変わらぬ生活をしていた。多産多死で、新生児の半分は死んだ。南部農村ではカシケとよばれる地方のボス階級が地域の支配を牛耳っていた。

 国民国家の確立が中途半端であり、バスク人カタルーニャは常に独立の機をうかがっていた。米西戦争によって植民地がモロッコのみになるも、ここでさえなんとか叛乱を抑えるという始末だった。

 以上のごとき土壌が、スペインにおける共和派と反動派の闘争を生み出したのである。

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 第一次世界大戦を中立で切り抜けた後、一九三一年、不況によって悪化した国民の不満を抑えることができず、アルフォンソ十三世は亡命する。こうして赤・黄・紫の三色旗を御旗にすえる、アルカラ=サモラを首班とする共和制内閣が誕生する。

 続いてアサーニャが首相につき改革をおこなうが、さっそく一九三二年サンフルホ将軍のクーデタに見舞われる。これは鎮圧されたが、左翼勢力が共産党社会党系団体・アナーキスト系団体のあいだで深刻に分裂していた一方、教会・軍隊・資本家・地主ら、またスペイン革新党・ファランヘ党・カルロス党・カトリック行動団、ヒル=ロブレスを頭とする人民行動党など、右翼勢力は強まっていった。

 これらは教会や大富豪フアン・マルティ、ナチス・ドイツの援助を受けていた。

 左翼内閣は退場し、一九三三年より二年間、中産階級を支持基盤とするレルー内閣がつくられるが、これを「暗い二年間」といい、反動政策がすすめられることになる。

 アストゥリアスでおこなわれたコミューンは、ムーア人(モーロ人、モロッコのベルベル・アラブ系カトリック)部隊や社会的浮浪者の外人部隊によって凄惨な弾圧を蒙った。

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 一九三六年、総選挙によってふたたび人民戦線とよばれる左翼連合が勝利する。しかし右翼はテロや暴力行為に走り、また叛乱の準備が進行していた。モラ将軍を中心に、ケイポ=デ=リャーノ将軍、サリケット将軍、ビリェガス将軍、カバネリャス将軍、ゴデード将軍、フランコ将軍らが軍事蜂起の機をうかがった。

 七月、カナリア諸島に左遷されていたフランコのためにイギリスの航空機が到着すると、セグイ大佐がモロッコにて叛乱ののろしをあげる。ところが政府軍が意外にも善戦し、サンフルホ将軍が墜落死、ゴデードは銃殺、ヒル=ロブレスはフランスへ逃亡してしまう。海軍が反乱軍に味方しなかったこともあるが、勝利したのはモロッコのフランコだけだった。

 それでも、反乱軍はモロッコ、カディス、セビーリャ、北部地方を含めた国土の半分を占領する。八月、ムーア・外人部隊がモロッコから本土に上陸する際に、ドイツ=イタリアの海・空軍が協力した。ドイツは鉄鋼資源を求めて、またイタリアは地中海の確保の点から、反乱軍を援助した。反乱のはじまる前から、フランコらはナチスドイツやファシストイタリアと緊密な関係にあったのだ。

 数年来独裁者サラザールの治下にあったポルトガルも、国土を使わせたり、義勇兵を送ったりと反乱軍を助けた。はじめは指導者の一人に過ぎなかったフランコが急速に支持を得ていった。

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 ドイツ=イタリア、それにポルトガルの支援は明白だったが、英仏ら欧州は「不干渉委員会」を設けて、小田原評定に終始していた。アメリカは反乱軍に大量の灯油と自動車を輸出していた。

 ソ連の行動についてはなぞが多い。反乱軍が優勢になってようやく、ソ連は共和国に若干の物資と五百人程度の義勇兵を提供した。同時に、各国から集められた国際旅団に政治委員会を潜りこませ、粛清をおこなった。

 ソ連はスペイン共和国を援けるためではなく、もっぱらソ連国益のために行動した。これにスペイン共産党も従ったため、アナーキストとの内戦にまで発展した。ソ連にとってはファシストと同様アナーキストも敵であり、この機会に異分子を排除するのは理にかなったことだったのだ。

 やがて各国は反乱軍を正式な政府と認め、フランコヒトラー総統(Fuhrer)をまねて統領Caudilloと名乗った。

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 第二次大戦が終結すると、反共軍事基地を求めていたアメリカがスペインと同盟を結ぶ。一九四七年、継承法によって王国となり、フランコ国家元首の役割を担う。

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 大抵の文献で反乱軍は蛇蝎のごとく嫌われているが、なぜ彼らがファシズムに賛同したかを考えなければならない。

 

スペイン戦争―ファシズムと人民戦線 (中公文庫)

スペイン戦争―ファシズムと人民戦線 (中公文庫)