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the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『信用恐慌の謎』ラース・トゥヴェーデ

 原題はBusiness Cyclesで、その通り景気循環についての本。作者はヘッジファンドのマネージャーらしい。歴史読み物なので読みやすい。

 

 ジョン・ローがオルレアン公フィリップのもとで王立銀行を設立し、信用紙幣(ペーパー・マネー)を確立させ国家の財政難を切り抜けるところから、景気循環の歴史ははじまる。

 植民地事業を統合させたインド会社を設立し、その株式発行の支払いに自分たちのジャンク国債を当てさせることで、借金を消すかたわら、硬貨と等価以上の価値をもつペーパー・マネーを大量流通させることに成功した。

 紙幣が人々の信頼を得、また安上がりの政府借入方法であるとわかり、また紙幣導入が景気好転の原因となったので、ジョン・ローらはさらに増刷を決定する。インフレがおこり、パリでは株式の取引がさかんにおこなわれるようになった。

 紙幣以前は、「計算単位、交換手段、価値貯蔵および繰り延べ支払い標準機能を果たすものなら何でも貨幣に」なれた。また中国では九一〇年頃に紙幣が導入されたがインフレのため廃止されている。

 結局、ある貴族が大量の紙幣を硬貨と交換したのがきっかけに紙幣の信用が暴落し、フランスは大恐慌に陥りジョン・ローは逃亡した。

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 続いてイギリスの事例、アダム・スミスがとりあげられる。イギリスは当時「かなりよく整備されたペーパーマネーのシステムを持っていた。支払手段には、金貨や銀貨だけでなく、イングランド銀行やその他の銀行発行の紙幣、約束手形、それに内国為替手形があった」。

 経済学の創始者たちは以下の通りである。ケネーは『経済表』および自由放任の概念を生み出した。カンティヨンは「マネーの流通速度」の効果を理解した。アダム・スミスは自己利益追求の重要性、保護主義の破壊性を提唱した。ソーントンはマネーサプライの観念と、マネーサプライ変動の原因結果の解明、中央銀行の積極的介入の効果を解明した。セイは「市場法則」を唱え、リカードは限界効果計算の重要性を広めた。

 グールドとフィスクはニューヨークにおいて金を買占め、金価格をつりあげそれを売り抜ける作戦を実行した。このような行為を投機とよび、J.S.ミルは危険視した。

 ――ロー計画崩壊の一五四年後において、不安定性は資本主義経済の内在的な特質であることがますます見え始めている。

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 アメリカ発の世界恐慌前後の出来事に関連して、新世代の経済学者、フィッシャー、ケインズシュンペーターの説があげられる。銀行はマネーを創出することを発見した。

 ケインズの経済学はこれまでの復習といえる。『一般理論』の特徴……消費性向と貯蓄性向は所得水準に依存する。1ポンド投資した場合のマクロ効果は2.5ポンドである。人間の投資決意は血気と不確実性に基づき、流動性選好に影響を受ける。

 「流動性の罠とは、どれだけ多量にマネーを注入しても、利子率は一定水準以下には下がらないという現象のこと。そうなる理由は、人々が債券の価格動向に対して弱気になり、損失を恐れてこれ以上債券を買おうとしなくなるからだ」。

 一方、ケインズをライバル視していたシュンペーターは、経済成長における企業家の役割に目をつけた。

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 続いてティンベルヘン、サムエルソンら計量経済学者が台頭する。ティンベルヘンは関数によって経済モデルを構築しようと試みた。サムエルソンは、これまでの景気循環の諸理論に大別して五つの非線形フィードバック現象があることを示した。

 ポジティヴ・フィードバック・ループとは相互に悪循環をおよぼしあう現象のこと。エコーとは、資本財や耐久消費財の部門で投資が束になってあらわれる現象のこと。カスケード反応とは、一部門の感情が、社会的汚染(メディア等)を通じて拡大する、大衆心理説に見られる現象。ラグとは、現在の出来事の効果が遅れてあらわれる減少のこと。ディスインヒビターとは、潜在的なネガティヴ・フィードバック現象がポジティヴ・フィードバック過程によって一時的にブロックされていること。

 

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 戦争が終わり、コンピュータの進歩とともに非線形、カオス、フラクタルといった新概念が学者によって提唱されるようになる。ハーストは世界が非線形の現象で満ちていて、単純化によっては測れないことを発見した。ローレンツやヨークがこれにつづく。有名なバタフライ・エフェクトもこのとき生まれた。

 ――気象学者が世界の権力を奪取し、気象予報を人類の第一目標と決定し、地球の全表面と空中は大気圏の外縁にいたるまで一フィートおきに小型の気象観測ステーションで覆い尽くしても、気象学者たちは長期の気象予報を立てることは決してできない。

 カオス理論は長期的予測が不可能であることを前提とする決定論である。

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 ミルトン・フリードマンマネタリストとよばれる経済学派を生み出し、トリレンマを示した。トリレンマとは……「為替レートのコントロール、物価水準のコントロール、為替管理からの自由」のどれもが両立できない現象のことをいう。

 ここから株式相場や、貧乏人から一躍大富豪となったジョージ・ソロスサザビーズやクリスティーズにおける美術品市場の高騰が語られる。バブル崩壊直前、安田火災ゴッホの「ひまわり」を史上最高額で落札したことは有名のようだ。

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 最後にアジア通貨危機をあげて、景気循環が健在であることを著者は示す。好況があれば不況はかならずついてまわるものだと著者は結論付ける。

 

信用恐慌の謎―資本主義経済の落とし穴

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