うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

交代(2012)

 身のまわりの機械類がとても静かなのでその日太陽がかたむいて

 砂の山が影をひくのにともなって、裏側にゆっくり沈んでいくのがわかった

 

 山が連続して並んでいる、すりばちと、とがった波長のかたちをもつ、銀色と、つやのある砂の山、台地には、弟の眼には見えない、ぼやけた人びとの列が、砂をすくっては、歯と歯のすき間、歯の、すっかり変形した

 

 エナメル質の面にすりこんで、維持、整備にとりくんでいる

 かれら、わたしたち、子供の髪の毛をたべてうごく、長い名前をもつ人びと、学名を首のタグにつけた脳みそのない人間、労働または兵役に従事する

 わたしと、となりの弟の遠い親せきたちが、夜風で冷えていく風景をながめた

 小さな、強度の足りない、弟のあたたかいからだをもちあげると、自然物の香り、くだものと、ケシの植物のにおいがして、眼球を清掃した

 

 山の輪郭、稜線はまばらな周期で変動して、風景のなかで、星座の面積は定まらなかった、このため、星の増えたり、減ったりにあわせて、弟の口、歯ぐきに生めこまれた、真っ白なシダが生えては、もぐっている

 

 わたしは、弟の足くびをつかんで、胴体を逆さ吊りにしてもちあげた

 肌のへこみやでっぱりに、いまは隠れているが、砂の山の表から、月が、小さな粒と、電気をおびたひものたばをのばす、何もない弟のからだをなでていくようにおもわれる

 これは生きているあいだに結実することはないだろう

 

 ずぶずぶと、編上靴、わたしの靴は砂にめりこんでいって、ひもの結び目から、銀のかけらがしみこんでしまった

 黒い、大型瞳孔をそなえた、清潔な眼球をみると、古い文字が書かれている


 その図鑑を、2人でいっしょに、ページをめくりながら、採掘場でおこなわれる、音のない、激しいゆらぎと、乱雑に埋められた、いたずら子供たちのちぎれたからだ。