原題「あまり期待できない時代」。
本書はアメリカ経済をわかりやすく解説したものだが、それでも素人にはほとんど理解できなかった。
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経済を考える上で重要なのは三つだけ、生産性、失業、所得配分。他のあらゆる事項はこの三つに付随するにすぎない。生産性成長率が下がったことがアメリカの停滞の原因だが、その理由と解決策がわからないのでなにもできない。
大切なのは、生活水準を消費を基準にしたら、あとはそれが最大になるような計算をすることだ。
九〇年代を通して富裕層はさらに富裕に、貧困層はさらに貧困になった。これは社会不安というデメリットをまねく。
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アメリカの経済問題と、それに対する政策……医療費は政府支出の大きな部分を占めるようになったが、命を扱うという倫理的問題が絡むためタブー視されている。金で命が買えるように設定してしまっては問題がある。
労働人口の伸びよりも高齢者増加割合がはるかに多いため、年金制度は今のままでは負債を生み崩壊する。これら二つの支出に比べれば貧困救済や海外支援の支出は微々たるものである。老後年金と医療を削ってダメージをうけるのは中間層なので、これを直そうと口にする政治家はまず落選させられる。
財政赤字を直すには総貯蓄が増えなければならないが、アメリカの総貯蓄の伸びは悪い。かといってこれを修正するには多大なコストがかかる。インフレも同様で、下げるほうが難しい。インフレ回避には一定の失業率と景気の後退(非効率性)が必要だからだ。
保護貿易は特定の利益者からの声で要請されるが、一般に言われているほど有害ではない。重要な点は、自由貿易を支持することが狭量な経済ナショナリズムを抑える役割を果たすことにある。
日本は長い間暗黙の力で輸入を制限してきたが、バブル崩壊後は状況も変わった。
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セービングス&ローン問題。ロイズの大損失事件、ベアリングズ銀行、住友商事の銅買占め事件、政府の半端な規制緩和と同じく、民間にまかせた市場原理主義も災害をおこすことがある。
乗っ取りは経営を効率化させる……大抵賃金がカットされ、株価はあがる。乗っ取りのはやった80年代以前は、いい加減な経営がまかり通っていた。そこで株主たちが尻たたきをはじめたのだ。
企業の資産(Asset)は資本(Equity)と負債(Debt)からなるが、この三つの関係がバランスシートであらわされる。乗っ取りとは負債によって大量の金を手に入れ、これで資本を買い、経営権を乗っ取り、自分の負債の返済にあてることをいう。
西ドイツ時代、ドイツ・マルクの信用(ブンデス・バンク)は高かったので、欧州各国はみな自国の通貨をマルクと連動させた。ところが再統一でおかしなことになった。
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クルーグマンによれば、アメリカはよくもわるくもならないだろう。曰く十年後を得々と予言するのはバカかペテン師のどっちかである。アメリカ経済は現状維持が妥当な見通しになるだろうが、高齢者保障が膨張したときにはなにがおこるかわからない。しかしいずれやってくる。
- 作者: ポールクルーグマン,Paul Krugman,山形浩生
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/04/08
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