善悪には拘泥しないが審美眼だけはもっていると自負する男ペトロニウスと、知識だけは豊富で心性のいやしいキロンは、おそらく表裏一体の存在である。ウィニキウスの指令によってキロンはキリスト教徒のなかに潜入するが、ウィニキウスはこの信仰に心を動かされる。
死後の世界における救いというアイデアが、キリスト教の革新的な点だとウィニキウスは考えた。キリスト教はこの時代では完全に異端であり、市民から事実無根の中傷を浴びせられている。
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快楽主義的で非情酷薄な精神しか知らなかったローマ市民やウィニキウスが、キリスト教の信念に心を動かされていく物語だが、ローマ風俗の描写はかなり非道徳的である。おそらく勃興時のキリスト教と対比させるためだろう。暴力と性にかんする言及が多い。
- 作者: シェンキェーヴィチ,Henryk Sienkiewicz,木村彰一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/03/16
- メディア: 文庫
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