うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『あらかじめ裏切られた革命』岩上安身

 破綻国家寸前まで追い込まれていた終末期のソ連と、ソ連が解体して誕生したロシアについてのルポタージュ。著者によれば、ソ連からロシアになったことは決して楽観的な予測を許さないという。

 共産党独裁と計画経済は、ロシアのあらゆる分野において汚職や賄賂をひきおこし、また経済の異常事態を利用して闇市場とマフィアが跋扈するようになった。軍隊が毎年三万人のリンチ死亡者を出すのは、組織が実質的にマフィアと変わらぬ状態に陥っているからである。他の官僚や公安職はいくらでも市民からむしりとることができるが、軍隊はそうはいかない。ハイパーインフレのもとでは、軍人のもらう固定給はなんの価値ももたない。彼らは飢え死にしないために金を手に入れなければならない。そこで備品を売ったり、武器を流出させたりが横行する。著者曰く、これが世界最強の精鋭ソ連軍の実態である。

 保守派とは既得権益を守ろうとするノーメンクラトゥーラのことを指し、改革派とは民主の名のもとに新しい権益を得ようとするもののことを指す。重要なのはイデオロギーではなく、利益である。特権を得るための道は今では党員資格ではなく民主派と名乗ることである。

 官僚や政治家が特権を利用してビジネスをはじめ、経済を支配するさまは現代中国とも共通する。あるソ連の政治家によれば、彼らが模範としているのはアフリカの大統領だという。莫大なソ連の土地、公共財産はどのように分配されたかというと、ルールの制定もないまま一部の人間によってむしりとられたのである。モスクワの官僚は首都の中心街を外資に売り渡したが、これを評して著者は「モスクワに香港でもつくる気なのだろうか」と述べている。こうした土地スキャンダル、地上げは各地で模倣されているという。住民を強制移転させるために屈強な男たちを雇って打ち壊しをさせるという描写は、中国とまったく同一としかおもえない。

 汚職はゴーゴリの時代からのロシアの伝統、慣習である。

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 民主主義に名を借りた共有財産の略奪、地方権力者の分離独立の動き、経済格差に起因する民族対立や階級の不満などが、左右合同の「愛国者」の勃興をうながしている。彼らは大ロシア主義者、スラブ主義者であり、ドルと西側資本への敵意から排外主義的でもある。

 これがのちのプーチン誕生と、奪われたロシアの回収につながったのではなかろうか。

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 チェチェングルジアオセチアといったカフカスは複雑な民族対立に悩まされているが、「分割して統治せよ」というロシア帝国のテーゼにとっては好都合なのである。

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 政治家や軍人、汚職官僚らはこぞって、不正に武器を売りさばいた。不正流出したものには戦車から軍事衛星、もしくは核ミサイルまでも含まれる。武器流出のことを探る人間は外国人でも消されるおそれがある、と著者はロシアの知人に忠告されるが、これは現在にもつながる。

 ロシアのハマコーともいわれるジリノフスキーが登場したのはこうした社会の腐敗、経済状態の悪化、治安の悪化が背景なのだ。彼は奇矯な振る舞いでピエロとも評されるが、元KGBであり「むしろ賢い」という。彼の政党は綿密なリサーチと広告、TV戦略によって比例区で勝利をおさめ、ファシズムの再来とも騒がれた。

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 ソ連崩壊後のロシアでは、ビジネスマンにたいするマフィアの襲撃が激増した。外国との合弁会社は次々と襲撃され、ロシア人ビジネスマンはそれ以上に被害を受けた。法整備がなされておらず、マフィアのすき放題にできる土地にわざわざ投資をするのは、汚れた金を活用しようとする輩だけである。

 「万国の犯罪者、団結せよ!」と著者は評しているが、こうしてロシアは国際マフィアたちの資金洗浄の場となった。

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 破綻したロシアは、果たしてプーチンによって改善されたのだろうか。情報統制やジャーナリストに対する攻撃、帝国主義的政策などは、変わっていないか、むしろ強化されているようにおもえる(そもそも改善点ですらないかもしれない)。経済状態については調べていないので詳しいことは言えない。

 この本に書かれている新生ロシアは、現在の中国と一部酷似している。経済開放政策に伴う社会矛盾の増大や、格差、汚職などは、まるでデジャヴのようだ。中国がロシアと同じ道をたどるのか、それとも別の道を行くのかをよく分析しなければならない。

 

あらかじめ裏切られた革命 (講談社文庫)

あらかじめ裏切られた革命 (講談社文庫)