うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『メキシコ革命』増田義郎

 征服から革命前夜まで

 コルテスらのヌエヴァ・エスパニャ征服にたいし、カルロスは新大陸で封建制ができてしまうのではないかとおそれた。当時半島は絶対王政の時代だったから、地方諸侯が力をつけるのをこのましくおもわなかった。王はアウディエンシアという行政司法機構をメキシコに派遣し、これが現地をとりしきった。ところがアウディエンシアを任された議長ヌニュ・グスマンはさんざんの悪政で私腹をこやしたため、放逐された。

 第二次アウディエンシアはキローガを中心とした人文主義者集団で、メキシコをトマス・モア『ユートピア』に描かれるような理想の社会にしようとこころみた。

 エンコミエンダ制など、王が必死にインディオの奴隷化を制限することで、どうにか問題は解決したようにみえた。確かに奴隷は減ったが、疫病と酷使によってインディオの絶対数が一割にまで減少した。

 やがて副王や教会、官吏、没落貴族の農地拡大によってアシエンダ(大土地所有制)がうまれた。インディオは移動を禁じられ、農奴のごとき存在にまで堕してしまった。教会も一枚岩ではなく、教団修道院と教区司祭が対立し、祭りで乱闘騒ぎをおこすまでになった。

 

 メキシコ独立から

 ナポレオンのスペイン征服によりフェルナンドは退位させられ、王位はジョゼフにすげかえられた。

 メキシコには本国人ガチュピン、現地スペイン人クリオーリョメスティーソインディオムラートなどがいたが、クリオーリョは半島の政治的空白をチャンスとしてガチュピンと同等の権利をもとうと試みる。ところがガチュピンはクリオーリョらの台頭を阻止するため副王を更迭する。

 この行動に怒ったクリオーリョの一党が、狂信的啓蒙主義司祭ミゲル・イダルゴの号令に応じて、一八一〇年九月反乱を開始する。このことからわかるようにはじめから独立を目指していたのではなく、あくまでクリオーリョがガチュピンに対抗して権力を保持しようとせんがための蜂起だった。

 イダルゴの蜂起にインディオメスティーソが集合した。

 ――グァダルーペの聖母万歳! 悪しき政府よ滅べ! ガチュピンよ死ね!

 ところがイダルゴたちはクリオーリョの権益をも冒さんという勢いだったため、副王軍にとらえられて処刑された。その部下の改革主義者モレーロス司祭もやがて処刑された。スペインではナポレオン支配がおわり反動政治が復活した。

  ***

 スペイン征服以前から、すでにインディオたちは複合社会を形成していた。すなわち、少数の貴族とその下に平民、また奴隷がいる社会である。ここに白人と黒人奴隷がやってきて、社会は混沌を極めた。このなかでカスタとよばれる血をもとにした階級が十六個もつくられたが、重要なのは支配階級である白人と被搾取階級の有色人種、それに中間搾取階級である混血のメスティーソである。

 イトゥルビデを皮切りに、ほぼ毎年クーデターによる政権交代がつづく。自由主義者ホアレスの新法はかえって保守派や農民たちを反動的にさせた。メキシコの空白を狙ってナポレオン三世ハプスブルクのマクシミリアン大公を派遣し、メキシコ市を占領させる。しかしこれはホアレスの軍に撃退され、マクシミリアンは銃殺される。

 アシエンダ制で生まれたカウディーリョたちの跋扈するメキシコには、国家的統一が存在しなかった。ホアレスらの急務は強い国家をつくり自由主義経済をとりいれることにあった。

 

 革命への道

 ――ポルフィリオ・ディアスは、一八七六年から一九一一年にいたる三十四年間、メキシコの政治を支配した独裁者である。

 ディアスは保守勢力との協力と強固な治安維持によって国家を維持することに成功した。大地主、教会、軍人、貴族をうまく懐柔し、退役軍人や盗賊を警察に登用することで治安を維持した。一方、彼の反対者は容赦なく弾圧され、農民たちも徴兵によって苦しんだ。東北に残っていたejido(インディオの共有地)は、法的な裏付けがないため、大地主によって奪われた。アシエンダ制はディアス治下において最盛期をむかえた。

 旧体制の強化におわるとおもわれたディアスだが、クリオーリョの娘と結婚することで白人文化を尊敬するようになる(当人は貧しいメスティーソ出身だった)。

 scientifico科学主義者とよばれる、コントら実証主義者に影響を受けた知識人をむかえ、外資導入を推進した。メキシコの生産輸出は上昇し、ついに国家財政が黒字に転じ、金本位制の導入にも成功した。一方、外資に経済を握られ貧民はさらにまずしくなった。

 しかしディアスはほぼ全階級、集団からの支持を失い、ポルトガル亡命知識人マデーロの蜂起によって国外逃亡した。ところがマデーロは部下の軍人ウェルタに欺かれ、殺害された。ウェルタの非道さに立ち上がったのがアシエンダ領主のカランサと、劉邦のようなインディオ農民出身の革命家パンチョ・ビラ、それにモレロス州の農民兵をしたがえた峻厳な革命家サパタだった。

 カランサは項羽のようなポジションで、メキシコ市を制圧していたが思考は旧態依然だった。パンチョとサパタが快進撃で首都に迫ると、カランサは一度脱出してベラクルスに本拠を構えた。パンチョとサパタの二頭政治がおこなわれるかにおもえたが、二人ともカウディーリョ(頭領、地方ボス)の域を出ていなかった。サパタは部下をメキシコ市において山林のなかにひっこんでしまい、パンチョはカランサの軍と対決することになった。

 カランサにはオブレゴンという策略に長けた政治家がおり、彼の助力を得てやがてパンチョとサパタを退けた。この二人はのち暗殺された。カランサは大統領となるがすぐに暗殺され、カリェスが大統領となった。彼はあくどい労働組合指導者モレノスと手を組み私腹をこやし、大統領を退いたのちも院政をしいた。

 その後任命されたのがラサロ・カルデナスであり、社会主義政策にヒントをもらった公共政策、公益主義を基盤とした、農地解放、外資導入、労働権の保障などの政策を進め、メキシコ近代化の道をひらいた。

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 独裁者がキノコのように生えてくるといわれるが、そもそも社会の質が同質的な日本・欧州とは異なるということに注意しなければならない。サパティスタはまだ本書が出た段階では出現していないようなので、これは新しい本を探す必要があろう。

 

メキシコ革命―近代化のたたかい (中公新書 164)

メキシコ革命―近代化のたたかい (中公新書 164)