うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

南のとりで(2011)

海の上からみどりいろの雲がモコモコと
もりあがるので よくみると
芝生でできた牛の腸だった 芝は青緑に発光して
太陽を飲み込んでしまう うわあ、槍のような
光線が まぶしいときは子供たちの下にもぐる
地下司令部の薄暗闇で目をこらす ほとばしる、風よりも
軽やかな人糞 
日なたはむごいとおもった 強力な日輪の
熱の柱が アスファルトをはがしてサンゴがむき出しに
なったと そういう印象をうける老人たち
老人とそのふくれあがった腹、よこたわる腸
水晶の窓からはおだやかな光が もうすぐ一日が終わる
光が差し込んで テーブルにむらがるぶたども
なんだ、今日の晩ごはんは、むしゃむしゃ
いっぴき、にひき、またいっぴきと豚が帽子をかぶって
帰る 小屋には子豚たちが父ぶたの帰りを待つ
包丁をとぎながら 自分とその家族を食べるために
太陽が沈むと、とりでからは人影が消えて
薄靄のなかに溶けていく このとき、管制塔は沈む船を
覗こうとしてからだをおりまげる
今日のはらわたは柔らかい 赤い雲になって天球に
とびちって 消えていく
黒い夜の空を、呪いのことばを腹の刺し傷から
しぼりだす
首級をとったぞ ところが 腐った野菜のかたまりだった
という気がする
骨と神経をつたって回線がつなぎなおされると
 水平線の見通しの外に飛んだ
信号音が鳴るので
波は太陽の熱をすべてうしなって動かなくなる
水面にさわると、粘土の匂いが指にくっついて
離れない、これは大きくておおらかな
墓だ 
この墓のなかに頭から
つっこまれて静かに息をひそめるんだなあ
ええ、おら、ばれ、
内燃機関の爆発する 電子をまきちらす音、
暗闇のなかのみどり色の のたくるような文字と
線分にみちびかれて
腰をじわじわとおしつぶしながら ハエのように
たかる軍用機をベッドの中から眺める
あらゆるからだの部位、あらゆるサンゴの踏みしだかれた
思い出から あきらめの光が放射する