うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

飛行体

 
水槽に墓をつくった姉の 自分から息をとめて水の、
澄んだ青色の中に沈んでいく、音のないわたしの姉の息
熱帯の魚がついばむ 色とりどりの絹と化学繊維を
浴衣を着た姉をおもいだす 
右手に磁器テープをもち、小さくて白い
手のひらには汗をかいて 汗がしたたると
暗い夏のむし暑い音と あの子の皮ふの ずるずると
崩れおちる予感がする。
おはやしが鳴っているよ、と姉にひっぱられて つないだ手は
何度も根元からもぎとれたので、姉は
気分を害する 青くて、黒い前髪のあいだから
 眼球がうごくのがわかった 太鼓と、そのまわりの
踊る大人たちの気配
月面の無数のノズルから霧が噴射された 水は落ちて、わたしたちの
花や、金魚や、配電盤をかたどった浴衣や
夏の衣裳にしたたりおちる 
灯りがゆっくりとついては消えた 子供のころの
放射熱にひたされた脳みそと おもいでが、電離層に
つきあたって飛び散った
赤や、青や、オレンジの熱帯魚の 小さい
群たちがよりそって
ついばむ姉のからだ 今、その指の紋章が
わたしの瞳孔に刻まれている 眼球のソケットに
絶えずとどく単調な信号音に 心が浮き立つ
という話が昔あった

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