うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『インド神話』上村勝彦

 『マハーバーラタ』を中心に、また『リグ・ヴェーダ』からも参照しつつ、インド神話を紹介する。

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 『リグ・ヴェーダ』はアーリヤ人最古の文献である。この中には神への讃歌がおさめられている。神はディーヴァといい、悪魔をアースラ(阿修羅)という。

 『リグ・ヴェーダ』における中心的な神はインドラ(帝釈天)である。インドラはヴァジュラ(金剛杵)をもち、悪竜ヴリトラを周期的に退治する。ヴァルナは「宇宙の秩序と人倫の道」を支配する司法神で、アースラの典型である。ゾロアスターではアフラマズダにあたる。ミトラは役割の不明瞭な神で、軍神、雨神、光明神ともいわれる。アグニは火の神、神酒ソーマはヴェーダ祭式で用いられる興奮飲料であり、讃歌の収録数はインドラに次ぐ。ほか太陽神スーリヤ、女神ウシャス、サラスヴァティ(弁財天)など。

 『リグ・ヴェーダ』を参考にしてブラーフマナという神話文献がつくられた。ここには巨人解体による天地創造や、洪水伝説、羽衣伝説がおさめられている。また、金、銀、銅の三つのアースラの要塞を、ルドラが矢によって亡ぼす説話がある。ルドラ(シヴァ)とヴィシュヌが重要な地位を得るのはヴェーダ以降である。

 ヒンドゥー教神話の原典は『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』である。詩論では、『ラーマーヤナ』が最古の詩、『マハーバーラタ』が第二の詩とされる。

 ヒンドゥー教が成立すると、シヴァ、ヴィシュヌブラフマーが三つの主要な神となった。シヴァは山岳にかかわりが深く、青い頸をもつ。ヴィシュヌは海洋とかかわりが深く、もとは太陽の光の神だった。ブラフマー梵天)は世界の創造者だが、シヴァ、ヴィシュヌより地位は低い。シヴァの妻はパルヴァティであり、鬼のようなカーリーという化身になる。ヴィシュヌの妻はラクシュミー(吉祥天)である。

 ヴィシュヌは不死の飲料アムリタ(甘露)を海の底から手に入れる。巨大な鳥ガルーダは母を助けるため神々の場所に突入しアムリタを奪う。ヴィシュヌはガルーダを称え乗り物とする。インドラはガルーダと友情を結ぶ。インドラの武器ヴァジュラはトゥヴァシュトリ(工巧神)によってつくられた。聖者アガスティヤはインドラが魔軍を退治するときに海を干上がらせ手助けした。

 ガンジス川はガンガーという神格をもつ。人間の英雄ナフシャはいったん神に昇進するがインドラの妻インドラーニーを寝取ろうとし罰を受ける。

 シャクンタラーが王と結婚する物語は詩聖カーリダーサによって戯曲化された。一角仙人の伝説はわが国にも伝播した。

 高徳の王が自分の肉体や眼を切り取ってバラモンにささげ、インドラからほめられる説話。美女と結婚するが禁忌をやぶって水を見せると蛙に戻ってしまい、怒った王が蛙の根絶に乗り出す。蛙の王は、王と相談し娘(結婚した美女)をふたたび王に与える。

 羅刹(ラクシャーサ)と夜叉(ヤクシャ)の起源と、それぞれ神に率いられて戦争をする話。食人鬼が頻繁に登場し、のみならず神々もよく人や幼児、子供を食べる。

 各説話において、バラモンが神に近い存在であることが強調され、またバラモンクシャトリヤ(武人)のあいだにも大きな隔たりのあることが示される。

 スカンダ(韋駄天)はシヴァおよび火神(アグニ)の子であり、神々の軍を率いて魔軍とたたかい、強力な悪魔マヒシャを殺した。象の頭をもつガネーシャもシヴァの子とされるが、ガネーシャ信仰が普及したのは『マハーバーラタ』より後の時代である。

 

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 ヴィシュヌはいくつもの化身をもち、とくに人びとから信仰される神である。ヴィシュヌの化身のなかでも有名なものにクリシュナがいる。クリシュナは赤子のときから強大な力をもち、成長してからも数々の悪魔を退治する。

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 神話における時間の感覚がよくわからない。過去から現在へと伸びる歴史的な時間とは違うようだ。線形ではなく、周期的、もしくは不定形の時間をもっているのだろうか。因果関係ははっきりせず、ある出来事とある出来事を時系列に並べることができない。また、同じ神・人物の行動でも別の次元に属するようにおもわれる。

 

インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)

インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)