うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『行政学』西尾勝

 行政学は、リンスなどの比較政治体制論につながっている。また、官僚制を知るためにも、このような教科書をひとつは読んでおきたい。公務員になる人間が、公務員の歴史を知るというのも無益ではないだろう。

 公的な組織だけでなく、企業や軍隊なども組織である。組織は人間社会の根本的な要素だからこれを考察するのは有意義である。行政学のみならず経営学などにも触れてみたい。

 ラインとは業務にかかわるピラミッド系統のメンバーであり、スタッフは専門家の立場からラインを補佐するが、ラインへの指揮権はもたない。スタッフとは軍隊でいえば参謀である。

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 1 行政サービスの範囲

 古代・中世の時代には、統治者の役割は国防・裁判・警察の3点にほぼ要約できた。絶対王政がおこり、中央集権の国民国家がおこると、統治者の職能範囲は増大し、独欧地域において官房学が生まれた。いっぽうで、ブルジョワジーやアダム・スミスら自由放任主義者は、国家の広範囲への介入を嫌った。やがて、都市化・産業化によって国家の職能は増大し、「消極国家から積極国家へ」と変化した。20世紀、2度の大戦、世界恐慌を経て、福祉国家なる概念が生まれた。

 

 福祉国家とは……生存権を保障する、所得再分配をおこなう、市場経済に介入する国家をいう。福祉国家とは、大衆民主制mass democracyを実現するために時代が要請した国家観である。

 

 ケインズ経済学をもとに政府の市場介入がさかんにおこなわれたが、1970年代のスタグフレーションを機に、サッチャーレーガン、中曽根らの小さな政府志向、「新公共管理New Public Management」が進み、近年ではふたたび市場メカニズムへの信頼に基づいた政策がとられている。

 ――行政サービスの範囲は、学問の確定しうるところではなく、あくまで政治のメカニズムをとおして決定されるべき性質のものである。

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 2 官僚制と民主制

 近代官僚制の成立は絶対君主の時代にまでさかのぼる。近代官僚制において、行政官に要求される属性とは「専門性・永続性(熟練性・終身性)・従属性・中立性」であり、現代公務員制にも継承されている。これら属性は、君主が門閥勢力や封建領主の力を削ぐために必要とした。

 絶対君主が譲歩し、議会が生まれると、三権分立が唱えられる。ここで法治主義の3原理、法律による行政の原理が生まれる。さらに議会の力が強まると政党が生まれる。立憲君主制下の議院内閣制を憲政という。

 イギリスでは、清教徒革命の際、常備軍の廃止が取り沙汰され、文民統制が確立した。名誉革命では、内閣を議会が掌握することで行政・立法の一元化を達成した。これが議院内閣制の成立であり、国王は「君臨すれども統治せず」の位置にまで退いた。

 共和勢力は党への忠誠に基づいて官僚を登用したが、これを情実任用(patronage)という。与党、つまり内閣が変わるたびに官僚もすげ代わり、専門性や熟練性が育たない弊害が発生した。そこでイギリスは19世紀中ごろに資格任用制(merit system)を採用し、政治家集団と行政官集団とを分離させた。

 アメリカの政党は、大統領と連邦議会との対立を調整する役割を果たす。政党は大統領選挙の際には民主・共和に分かれてゆるやかな連合を組むが、「日常は全国政党としては機能していない」。公選職候補者の選定・当選に比重を置いたアメリカの独特な政に基づいて発展したのが、公務員の猟官制(spoil system)である。猟官制の弊害がすさまじいため、19世紀末から資格任用制への改革が論議される。しかし、猟官制の影響はいまでも根強く残っている。

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 3 アメリカ行政学

 アメリカ行政学は、行政と政治の分離を唱えた行政理論の流れと、経営学(Business Administration)を元とする組織理論・行政管理論の流れとが融合して生まれた。

 ――要するに、事務管理論と組織管理論を中核にしたこの時代の行政管理論は、行政固有の領域に属する活動を合理化すること、そしてまた執政権を統合し強化することを実践目標にした行政理論だったといえる。

 組織理論に影響を与えた科学的管理法は、工場管理法のテイラーによって創始された。産業の発展とともに、工場の自動化が進むと、経営者たちは組織の科学を求めた。現代組織論は、チェスター・バーナードからはじまる。バーナードの組織理論は「軍隊・官庁・企業・政党・労組・教会・学校といった多種多様の、ありとあらゆる協働体系一般に普遍的に該当するところの組織の純粋理論の構築をめざしたもの」である。以降、現代組織論は合理的選択理論や政策決定・政策評価研究、政策科学、管理科学など豊かな展開をみせている。

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 4 行政学の構成

 わが国におけるアメリカ行政学受容の歴史は、いかに自国に適した学問に変えるか、という試行錯誤の歴史である。官僚制の根付いていないアメリカで生まれた行政学を、強固な官僚制国家たる日本でそのまま用いることはできない。

 行政学は、行政範囲を政治学的に考察する学問である。しかし、公的な範囲を扱う財政学、公法学、政治学との境界はかならずしも明確でない。

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 5 現代国家の政府体系

 政府体系とは権力分立のことをいう。政府体系はふつう2層から4層の構成をもつ。日本の場合は国―都道府県―市町村である。これを中央地方関係という。

 中央地方関係にはアングロ・サクソン系と大陸系がある。封建貴族との関係が対立的でなかった英国では、自治性が強く、また中央と地方の業務が明確に区別された分権・分離型の関係が発展した。一方、強力な封建貴族たちの力を抑える必要があったフランスでは、行政区は従来の封建領主の境界とはまったく別につくられた。強い中央集権構造をもち、また中央地方が一致して業務に当たるこの形態は集権・融合型とよばれる。

 ただし、実際にどの程度地方自治がおこなわれているかは、市町村の人口規模などにより変動する。イギリスの市町村の平均人口は10万を超えており、自治体の管轄は広範囲におよぶ。フランスの膨大な市町村の平均人口は1万にも満たず、自治体の裁量権は少ない。

 もっとも現代福祉国家では両者は接近している。自治体の行政活動は膨張をつづけ、中央地方の相互依存は進む。

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 6 戦後日本の中央地方関係

 明治維新当初の過剰な中央集権化を反省し、大久保利通は三新法を制定、地方分権改革をおこなった。戦前の地方制度は、ドイツ式からフランス式への改正の道をたどった。

 細川連立政権からはじまった第一次分権改革によって、地方自治の集権制と融合性が緩和された。しかし、分権・融合型に完全に移行したとは言い切れない。著者は分権改革の課題として、地方の自主財源の充実、道州制・連邦制・廃藩置県などの地方分権の受け皿論議、国―都道府県―市町村の事務事業の再配分、自治事務に対する国の法令緩和、地方自治法による制度規制にかんする議論、の6つをあげる。

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 7 議院内閣制と省庁制

 ――……「政治主導」とは、政治家主導や与党主導のことであってはならず、内閣主導のことでなければならない……

 明治憲法下の立憲君主制は、「近代民主制への移行」つまり「議会政治の発達とその下での議院内閣制の確立」を極力抑止することを目的に設計されていた。

 戦後、新憲法によって国民主権が宣言され、国会は国権の最高機関となり、議院内閣制が確立した。

 議院内閣制の制度原理とは、内閣が議会与党を基盤に構成され、議会下院に対して連帯責任を負い、議会下院の信任を受けているかぎり存続する、というものである。議院内閣制において、野党とマスメディアは政権の監視の役を担う。そして、議院内閣制は周期的な政権交代を予定している。

 政治主導とは内閣が省庁組織に働きかけることであって、与党議員が要望を吸い上げ内閣の頭越しに官僚を統制することではない。

 ――この種の政党政治家個々人による恩顧主義(clientelism)の政治行動様式が政界の隅々にまで広く蔓延しているという事実ほど、矮小化された意味での「政治家主導」が各方面でそれなりに発揮されていることを雄弁に物語っているものはない。

 日本の省庁の特徴を、著者は以下のように要約している……省庁制度が硬直的で、柔軟な変化を困難にしている。省庁の構成が安定している。よって国務大臣の定数もほとんど変わらない。各省の内部組織には画一的規制がある一方、外局組織にたいしては柔軟である。各局・各省庁レベルの官房系統組織が高度に整備されている。

 橋本行革と小沢構想は、国民―国会―首相―内閣―省庁という憲法の理念の実現、内閣主導の制度原理への回帰をめざすものだったが、まだ達成されたとはいえない。

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 8 現代公務員制の構成原理

 現代公務員制の構成原理は資格任用制であり、政治任用・猟官制の制限である。戦後、アメリカの職階制を導入しようという動きも見られたが、既存制度とかけはなれているために頓挫した。職階制をもとにした開放型任用制とは「官民間・政府間・各省間に類似の業務が存在することを前提にし、またそれらの業務相互間の労働力の移動を容易にしようとする人事制度」である。いっぽう日本の閉鎖型任用制は「組織単位ごとの終身雇用制と年功序列制」を基本とする。

 同じ資格任用制でも、たとえばイギリス、フランス、日本のあいだには相違が存在する。

 日本において、近年、高級官僚の政治任用が見られる。

 人事院は、会計検査院のような、内閣からも独立したような特殊な地位を占めている。これはGHQの顧問フーバーの考案によるもので、人事院が省庁人事を管轄し、また俸給等の勧告も行う。

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 9 官僚制分析の視座

 官僚制bureaucracyとはもともと批判的なことばとして生まれた。ここでは中立的なヴェーバーの官僚制論を紹介する。官僚制組織とは「頂点に独任制の長を戴き、その下に幾層もの階層(ヒエラルヒー)をもち、しだいに末広がりに広がっているピラミッド型のヒエラルヒー構造をもつ組織」をいう。官僚制組織の対極は合議制組織である。

 近代官僚制の特徴は以下のようなものである……規則による規律の原則、明確な権限の原則、明確な階層、公私分離、世襲・売官の禁止、文書主義、任命制、契約制、資格任用制、ほか。

 官僚制はひとたび確立すれば破壊することが困難になる。ロシア革命においても、官僚制は継続されるのみならず強化された。官僚制は支配のための「精密機械のごきもの」である。官僚制は、「その知識・情報・意図を秘密に保つことをとおして、その優越的地位を高めようとする」。

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 10 官僚制組織の作動様式

 軍隊は官僚制組織の代表的なものである。軍隊は命令系統の一元化をとくに重視する。軍隊は軍団・師団・連隊単位で地方に駐屯し、外界から隔離された環境で訓練にあけくれる。そのため、クーデターの際ひとつの師団・連隊がまるごとクーデター部隊になってしまうことがある。

 行政機関は、軍隊のような明確な目的を担っていない。目的そのものを考案し、それにあわせて政策を立案しなければならない。縦横両方のつながりをもつため、命令系統は複雑になる。また、どこまでルール化をすすめても「裁量の余地を絶無にすることは不可能」なので、上司は指揮監督権をもち、部下の状態を監視しつづけなければならない。ベンディックスいわく、「官僚制組織の集団行動に伴う問題の核心は、いかにして規律と裁量、服従と自発の適切な均衡をはかるかにある」。

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 11 官僚制組織職員の行動様式

 官僚制組織においては、権威による支配、地位による支配、権限による支配の3つの形態がある。

 組織において、職員が割に合わないと感じた場合、辞職する。辞職にまでおよばない場合、反抗をおこなう。反抗には、怠業・不服従・面従腹背行為がある。面従腹背行為には、上命下服をさまたげるもの、下意上達をさまたげるものがある。裁量を乱用したり、上司にたいして情報を秘匿したり、逆に大量の情報を与えて混乱させるなどの方策がある。

 忠誠の対象が国家や省、直属でない上司のばあい、それが上司に対しての反逆となる場合がある。また、警察官など「ストリート・レベルの行政職員」は裁量の余地が広く、また適切な勤務評価をくだすのが困難である。そのため、点数稼ぎのために職務質問を濫発するなどの状況がしばしばおこる。

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 12 第一線職員と対象集団の相互作用

 公共の利益を実現するために国民に命令・禁止・許可をすることを規制行政活動とよぶ。規制行政にたいする違反行為を根絶するのは不可能である。よって、費用や効果を勘案して一定の水準を達成することが求められる。

 違反者には善意の違反者、悪意の違反者、異議申し立て者、反抗者の4タイプがある。たいして、執行戦略には周知戦略、制止戦略、制裁戦略、適応戦略がある。異議申し立て者とは、「あえて違反行為をおかして規制担当部局と争おうとする」ものである。反抗者は当局と全面抗争をおこなおうとするものをいう。こうした違反者の違いにたいして、適切な戦略を用いなければならない。

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 13 官僚制批判の系譜

 官僚の優越……官僚が内閣・議会・大臣などをしりぞけて実験を握ってしまうこと。官僚組織が独自の既得権益をもち、改革に抵抗すること。しかし、低次元な党利党略から超然とするために、官僚の中立性が重んじられることもある。

 官僚は非効率的である……組織は膨張する。官僚主義bureaucratismとは……「不親切、尊大横柄、役人根性……杓子定規の形式主義、繁文縟礼、法規万能主義、縄張り主義、権威主義、特権意識」など。しかし、これらは官僚組織が職務を遂行するために必要とされる特徴の裏返しであり、なくすことはむずかしい。

 ほか、官僚の惰性inertiaと刷新innovationにかんして、キャリアとノンキャリアの相違、職員組合の矛盾などが論じられる。

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 14 政策形成と政策立案

 行政活動には政策の立案活動、法令の起案活動、予算の編成活動などがある。政策・法令・予算の最終決定権は政治機関にある。政策評価の方法は多様であり、どのような基準が有効かについて議論が交わされている。

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 15 環境変動と政策立案

 政策立案には当然これをうながす環境変動が存在する。環境要因には国際政治、経済成長・生活水準、人口構成・人口分布の変動、科学技術発展、気象・自然災害などがある。

 こうした要因を調査するために業務統計と調査統計が実施され、行政需要の施策へと変換される。さらに行政活動たる予測と計画に利用される。

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 16 日本の中央省庁の意思決定方式

 稟議制とは、末端の係員が案を起草し、これをどんどん上に回覧させ、専決権をもつものが決済することで立案が認められるという、いわゆるハンコ行政の形式である。

 とはいえ、すべての案件が稟議制によって処理されるわけではない。より重要な法案を決めるときには、「持ち回り型」とよばれる方式が用いられる。この方式は……「起案文書の起案に先立って、大綱について垂直的水平的な意見調整がおこなわれる」、意見調整の実質的決定者は決裁権者につくスタッフ、すなわち事務次官や官房長・主管局長である、意見調整は会議形式でおこなわれる。

 日本独自の特徴としては、実質的な決定権が大臣より下位の局長・課長に委譲されていること、意思決定の際省庁間のセクショナリズムが発言すること、スタッフ、つまり官房系統組織が重要な役割を演じていること、などがあげられる。

 国会答弁資料も、これら方式によって事前に決定される。議員が前もって「質問通告」し、官僚が「質問取り」によって議員との調整をおこない、答弁資料を作成する。

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 17 予算編成過程と会計検査

 財政には、資源配分機能、所得再分配機能、経済安定機能の三つの政策的機能がある。現代民主制では、政府財政はすべて議会の議決に基づいて処理される。財政学はこの領域を扱う。

 予算は予算作成過程、予算執行過程、決算過程の三過程をたどる。予算作成がなければ新年度は公務員の給与さえ払うことができない。予算編成も下から上へと意思決定がなされる。

 会計検査は会計検査院がおこなう。しかし、予算の経済性、効率性、有効性については、過度の干渉は政治機関の独立を妨げるので、慎重である。

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 18章は能率を扱う。能率とは仕事の有能性とほぼ同義だが、評価方法を考えるとなると複雑である。19章では行政管理と行政改革を、20章では行政統制と行政責任を扱う。行政管理とは行政活動を管理額の視点から把握することである。行政統制・行政責任では、行政活動を統制する制度を論じ、また、行政が国民に果たす責任……オンブズマン制度や情報公開制度などに触れる。このあたりは関心がおこらず流し読みになった。

 

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