うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『中国の嘘』何清漣

 中国には厳しい情報統制が敷かれており、中国のメディアは党中央のプロパガンダ・マシーンである。

 われわれは、中国の外側において培った常識を基点に、中国政府の「言葉」ではなく、「行動」を観察しなければならない。たとえば、中国ニュースは基本的にマイナスの事柄は報道しない。報道された場合、字面よりも深刻に考えるべきである。ソ連と異なり、中国は世界各国と経済的なつながりを持ち、また諸外国にとって中国市場は魅力に満ちている。このため外国は、ソ連に対してしたような、正面切った非難をできないでいるのだ。

 『中国現代化の落とし穴』の著者が、とくに中国のメディア・コントロールに焦点を当てて調査した本である。膨大な事例をあげて、嘘と暴力の実態をあばいている。

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 直接記者を殺害し、迫害していた毛沢東華国鋒時代を経て、一九七八年、鄧小平以降になると、メディアコントロールはより隠然とおこなわれるようになった。メディア支配は狡猾さを増した。党によるメディアの統制は、胡錦濤温家宝時代においても健在である。香港メディアもすでに大陸と同等の規制をかけられている。

 報道統制とイデオロギー教育による愚民化政策は中国における統治の根幹を成す。

 中国における「法治」……幹部のはからいが法律を超え、また情報統制をおこなう行政命令のほとんどが憲法違反である。

 中国の官僚はすべて厳密な等級によって秩序付けられているが、メディアもまた政治的地位によって等級が割り振られている。等級の高いメディアはたとえば『人民日報』『求是』『中国中央テレビ』などである。中央テレビの記者たちは皆高級車を乗り回し別荘を所有しているという。

 あるメディアの等級が自分の等級よりも低い場合、その報道を規制したり握りつぶすことができる。地方政府の役人は地方のメディアを牛耳ることができる。政治的な規制に加え、記者への経済的な支配も情報統制の要である。コードに違反した記者、新聞社は処罰を受け、二度と報道・文化関係の仕事につけなくなる。よって、小役人の不正はあばきやすいが、高級官僚の不正を告発するのは容易ではない。

 『焦点訪談』はCCTVの人気番組で、取材班は地方におもむき問題を報道する。等級の高いCCTVに目をつけられた地方政府は、ただちに北京に陳情団を送り、コネや賄賂を駆使して取材をやめてもらうよう働きかける。彼らが恐れるのは、自分たちの行状が中央の幹部に知れることである。中国の政府やメディアには、民間からの評価、世論はほとんど影響しない。彼らはただ中央宣伝部にしたがい、また中央に汚職腐敗がばれるのを恐れるのだ。

 「我々が国家機密だと言えば、それは国家機密なんだ」、中国において国家機密とは大変幅の広い概念であり、否定的な汚職、災害、事故、SARSの拡大やエイズの蔓延などのニュースから、十数年前の新聞記事までがその対象となる。

 近年では中央政府と地方政府が結託し、さらに黒社会も加わり、記者を迫害する事件が多発している。鉱工業ではよく事故が発生するが、記者たちはしばしば封鎖に遭い、地方政府に雇われたゴロツキから暴行を受ける。地区警察が総出で黒社会の密輸に関与していたり、黒社会の組長が官職についている事例も見受けられる。

 地方の下級幹部から不当な税徴収をうけている農民を救うため、租税にかんする政府の公文書を集めたガイドブックをある記者が刊行した。ところがこの本は「反動書籍」に指定され、記者は逮捕拘留された。これは幸運な例で、記者が撲殺されたり、行方不明になった例はいくらでもある。

 『南方周末』はかつて良心的なメディアとして機能していた。この新聞は政府や公共事業、通信・エネルギー、金融など政府の独占部門における汚職腐敗を積極的にとりあげ批判し、多くの購読者を得た。これは、当時広東省元老葉剣英の支配下にあり、上海派江沢民から一定の距離を置くことができたことによる。広東省の後ろ盾によって、『南方周末』は他省の不祥事を取材し、記事にすることができたのだ。葉一族が衰退し、江沢民の権力が強固になると、『南方周末』は名前だけを残して編集部を総入れ替えし、提灯記事を発信するだけのメディアにされた。

 外国人ジャーナリストは中国政府からさまざまな規制を受けており、事実を知ることは容易ではない。エドガー・スノーなど、共産中国を賛美しながら晩年に後悔した外国人は多い。

 報道・メディア・出版業においては、外資の参入が制限されている。海外の雑誌新聞・書籍、映像なども厳しい審査を受けて中国に輸入される。インターネット勃興時、この最新技術により中国にも言論の自由が生まれるのではないか、という楽観論が唱えられた。中国はただちにインターネットの「ドメスティック」ネット化に乗り出し、海外のニュースサイトへのアクセス規制、不適切な書き込みやサイトの閉鎖、管理人や投稿者の逮捕などの対策をとった。

 マイクロソフトを除いて、ヤフー、シスコ、サンマイクロシステムズなど多数のソフトウェア企業が、中国のインターネット規制・監視システム構築に協力した。このシステムの極北が「金楯(ゴールデン・シールド)プロジェクト」である。

 GDPは粉飾と数字の捏造ばかりであてにならない。さらに、GDPそのものも環境汚染や就業率、格差などの社会的コストを反映しない。GDPの粉飾によって中国政府は外資の参入を誘いつつ、国内では地方役人の不正報告を摘発している。

 中国において、政治制度、より直接的には、専制政治はまったく変化してこなかった。自由と民主主義の達成のためには、まず国民が情報を得ることが不可欠である。独裁政治、専制からの解放は、メディアの健全化にかかっている。

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 専制、汚職腐敗の程度があまりに陰惨かつ類型的で、笑うしかない。ソ連ジョークやロシア小説のような事件が、実際に大陸では頻発している。ソ連においても、中国においても、ジャーナリストふくめた個人の力はあまりに小さい。彼らができるのは自分の身体生命を犠牲にして記事を出すか、笑い飛ばすか、黙るかである。

 

中国の嘘―恐るべきメディア・コントロールの実態

中国の嘘―恐るべきメディア・コントロールの実態