うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『南北戦争の遺産』ロバート・ペン・ウォレン

 「南北戦争はわれわれが唯一「実感できる」歴史、国民の心のなかに生きている歴史なのである」。

 

 本書はアメリカ合衆国に大きな影響を与えた南北戦争について論ずる。

 冒頭、著者は「南部連合の人びとの精神に統一国家への想いが宿っていたように、心の奥深くに奴隷を解放したいとする気持ちがあった。すくなくとも深い道徳的、論理的、経済的な不安感があったのだ」と書いているが、これは事実だろうか。

 南北戦争は合衆国の統一をうながし、また巨大産業を発展させた。軍事においては柔軟な発想や補給、兵站、輸送面の重要性を認識させた。南部人、南部連合という意識が真に目覚めたのは敗戦後だった。

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 実利主義(プラグマティズム)の起源をさぐる形式で、著者は北部人の道徳律主義と南部人の法律尊重主義(legalism)という二つの思想傾向を説明する。

 道徳律主義とは、正義と自由のためにはどれだけ虐殺してもよしとする、狂信者のたぐいである。

 ――(典型的な南部農場主の生涯は)歯止めのきかない肉欲、不潔な人種混交、自慢げなホラ話、傲慢な独裁、卑怯な残虐行為、際限のない放蕩暮らし、無類の傲慢、限りない虚栄心、比類なき弾圧、野蛮きわまりない残忍性などの限りを尽くした生涯である……奴隷所有者はいずれも生きる権利を失っている。

 道徳律主義がさらに過激になると、社会そのものを否定する超絶主義者たち(ソローエマソンら)になる。批判的に見た場合、かれらは「役立たずのエリート」であり、ひきこもって自我の無限拡大にいそしむものたちである。

 

 「責任を伴わない良心――これこそまさに、高貴な精神の持ち主の決定的な弱点なのである」。

 「神とともにある者はひとりでもつねに多数である」

 

 一方、南部人は「政治的民主主義と市民権」にこだわりすぎたため、兵士としては弱かった。法律尊重の観点から、社会批判はおこらず、また奴隷制の擁護にも用いられた。北部では新聞が弾圧されたのにたいし、南部連合では言論の自由を遵守した。法律尊重主義の南部人もまた、著者いわく非現実的だった。

 非現実的な道徳律主義と法律尊重主義との双方を嫌って、実利主義を重んじたのがかのリンカンである。

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 南北戦争によって、合衆国民は政治に論理はいらないという教訓を得た。「論理的な政党制は論理的な銃撃戦を論理的に導く」、「論理性は常識によって抑制、制御されない限り狂信主義に向か」う。アメリカの政党政治が非論理的であり、妥協的であり、また政治議論より日常生活を重視するのはこうした思考に根拠がある。

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 内戦である南北戦争という歴史をもつことで、北部人は免罪符を、南部人は言い逃れを手に入れた。二つの悪癖を乗り越えて、南北戦争は実際にアメリカを変えた事件であるのみならず、アメリカ人の心性や行動様式に影響を与える歴史となった。南北戦争の複雑な対立、悩める将軍たちの姿はいまでも国民をひきつける。

 短いパンフレットのような本だが、『反知性主義』と同じく米国民のメンタリティについて詳しく書いてありおもしろかった。

 

南北戦争の遺産 (アメリカ文学ライブラリー)

南北戦争の遺産 (アメリカ文学ライブラリー)