うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ウッドハウス、エーメ、ペレー、イリフ・ペトロフ、ケストナー』

 現代ユーモア文学を集めたもの。
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 ウッドハウスの「ジーヴス物語」は、有能な執事ジーヴスが諸問題を解決する話である。主人のもとに問題が舞い込むと、主人は解決案を考え、ジーヴスに手伝いを頼む。ジーヴスは主人の解決案には与さず、最良の解決に向かって行動する。主人は裏切られた、図られたとおもうが、よく考えるとジーヴスの行動が最良であったと気づく。

 執事を題材にしたユーモア小説は、これがはじめなのだろうか。いずれにせよ執事ものというジャンルが存在することを発見した。登場人物はみな滑稽に書かれている。主人にふりかかる問題はみな総じてしょうもないもので、彼らの必死なさまが滑稽なのである。

 マルセル・エーメの「偽警官」では善良な心をもっているはずの人間が極悪人になり、「恩寵」では徳の厚い老人が悪徳をつぎつぎに重ねていく。善悪がひっくり返った人間を書いているが、二作とも戦時中を舞台にしているので、世相を反映したのだろうか。

 ジャック・ペレー「けもの」はセーヌ河上流の沼にすむ怪物の話で、平穏な空気が流れている。
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 「十二の椅子」イリフ、ペトロフ

 イリフ、ペトロフという二人の作家による合作だが、小説の合作とはいったいどんなものなのかわからん。章ごとに分担しているのだろうか。

 元貴族のボロビヤニノフは、おばの臨終の際のことばをもとに、養老院の椅子に隠された宝石を手に入れようとする。偶然知り合ってしまった結婚詐欺師志望の若者ベンデル・オスタップに計画を知られ、二人で山分けという取り決めになる。

 椅子に埋められた宝石をめぐって、ボロビヤニノフ、オスタップ、某神父が争奪戦をはじめる。小さな滑稽譚を寄せ集めて宝石探しの物語がつくられている。この滑稽譚のなかに出家者の話がある……文明の栄華をきわめたある伯爵は真の平静を手に入れるため荒野に出家し、棺桶のなかで生活をはじめるが、気がつくと南京虫と日夜格闘していて人生の意味を見失っていた。

 人生の意味は闇につつまれていて見えないことを悟り、しがない掃除夫として暮らしたという。

 社会主義社会というイデオロギー、理想を基盤にした国で生活している人間たちだが、その頭のほとんどを金や賄賂や食い扶持のことでいっぱいである。

 詐欺師と愚かな老人は椅子を求めてロシアの辺境を旅するが、結局宝石は手に入らない。詐欺師もバカならだまされるほうもバカ、老人は輪をかけてバカである。二人は身分を偽るが、民主主義の大思想家、チェスの名人、こじき、結婚詐欺など多岐にわたる。しかし、オスタップがボロビヤニノフにたいし支配権を握ることで、老人のなかには憎しみが宿る。最終的にオスタップに利用されることを恐れたボロビヤニノフは彼の寝込みを襲い殺してしまう。

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 「点子ちゃんとアントンケストナー

 ナレーターが独特で、章末ごとに登場人物をまとめたり、人物にたいし寸評したりする。章ごとに教訓を示してくれるが、ここにはユーモアと温かみがある。善良で勇気ある少年アントンと、金持ちの娘だが善良な点子(ルイーゼ)が、悪人たちを退治し幸福な結末を迎える。善良な子供の言動はそれだけで幸福を招く。テンポがよく、話もまとまっている。

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 解説を鵜呑みにするわけではないが小説においてユーモアは無視できない要素である。ユーモアと退屈は両立しないことが多いので、一分一秒でも笑いを保っていられることが必要だ。