うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

鐘(2011)

 木陰がすこしづつ小さくなって、木が数秒間のあいだに
 のびたので、そのかわりに建造物が、どす黒い
 けむりのなかにうもれてしまった
 おそろしい幹と、枯れ枝の、昼の時間にくらべて
 延長された部分が、太陽の楕円を追いかける
 ように、空の表面につきささり、つづいて
 無数の枝が表面につきささる
 日が暮れかけると、太陽はうまく枝の追尾から
 逃げまわった、山の裏側に
 もぐりこむかとおもったとき、ふと、
 ぜんぶの窓、ガラスの反射のひとつひとつに
 むかって、うたがいの眼がむけられる
 子供たちと同じ声をもつ、どうぶつのにおい
 が耐えがたい、
 生徒たちの顔がおもいうかぶ、かれらは
 音量でゆらいだり、消えたりした
 きまりごとをつくっては、それが後々まで
 たるんだ脂肪の中枢にしみついている
 わたしは、ちょうど同じ時刻に子供たちは
 かばんに本を入れて校舎を出た
 冷たい空気が、足元でよどみをつくっており、
 いくつかの足、まだ細かった、老化と
 腐食のすすんでいない、新鮮な部位は抜け落ちた
 ようだった
 湯気のなかに紙の袋があり、だれかが
 大切そうにかかえている
 内部からぼとぼとと、くるぶし、透きとおる
 爪をもつ指、皮フのなかのくぼみ、ビー玉を転がしたら
 滑るように吸いこまれていきそうな、未発達の
 眼球のソケット、などが並べられた
 口のなかに、歯と、歯ぐきだけでなく、ひどく
 漠然とした連絡がしまいこまれている