うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ブーベ氏の埋葬』ジョルジュ・シムノン

 ネタバレあり

 

 パリの住宅街で老人が死ぬと、かれの妻を名乗る女があらわれる。死んだブーベ氏の経歴はなぞにつつまれており、アパートでひとりで暮らすかれの行方を、妻や、別の妻、娘たち、ほか、いろいろな人物が追っていた。

 刑事たちはブーベ氏の正体をつきとめるために捜査を開始する。ブーベ氏は金持ちの家にうまれて、優秀なスパイになったあと、身分を偽ってコンゴの炭鉱経営などにたずさわり、最後にすべてを捨てて年金生活者になった。

 最終的に、ブーベ氏は楽に死んだ。しかし、俗世間から逃げることがここまで都合よく、こぎれいに解決することはなかなかないとおもった。

 パトリック・ホワイト『ヴォス』では、ヴォスは原住民たちに無残に刺し殺され、コンラッドの本でもたいてい原住民に殺される。

 隠遁したスパイはよぼよぼのじじいになったところを捕らえられて、みじめに連行されていく。なので、ブーベ氏はめずらしい例だと感じた。俗世間から逃げようとすると、ほとんどは失敗する。

 ――『戸棚のなかに墓地を保存しておくなんて、とんでもないことだ』……『アルバムの最初の頁の死者たち! つぎの頁の死者たち! それからまだ完全に死んでいないか、ほぼ死んでいるような人たち。いつか死ぬだろう人たち……』