うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『インフレーション宇宙論』佐藤勝彦

 現在、標準理論となっている宇宙論についてわかりやすく説明する本。

 まず、宇宙論の発展をたどる。アインシュタインは、時間と空間が不変でないことを提示し、またハッブルは宇宙が膨張していることを発見した。宇宙が火の玉から生まれ、ふくらみつづけている、という「ビッグバン宇宙論」は、ガモフによって提唱されたものである。

 ビッグバン宇宙論にはいくつかの問題点があった。これは一般相対性理論にも含まれた矛盾で、質量もエネルギーも無限大である特異点が存在するというものである。宇宙のはじまりが特異点だとすると、そこだけは物理学が破綻してしまう。また、宇宙の曲率(時間と空間の歪みのようなもの)がほぼ0に近いのも不思議である。

 こうした点を改良するために生まれたのがインフレーション宇宙論である。この宇宙論はアラン・グースと著者によってつくられた。

 すべての力は重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つからなる。これをすべて統一しようという試みが、力の統一理論、大統一理論である。

 宇宙がうまれたときは秩序がなく、真空のエネルギーが満ちていた。真空エネルギーの斥力によって加速膨張がおこり、ここで相転移がおこり熱が生まれ、火の玉となった。

 真空エネルギーの密度は常に一定であるため、宇宙がふくらむにつれて真空エネルギーの総量も増大した。

 インフレーション宇宙論が示す予測は、COBE観測機やその他の観測機械によって次々と実証されている。同時に、あらたな謎も生み出している。宇宙の大部分を占める正体不明の物質であるダーク・マターと、正体不明の力であるダーク・エネルギーである。

 ダーク・マターは銀河系の構成物を観察したときに、外側のほうが早く動いていることから発見された。ダークマターは銀河系を囲むように存在しており、その正体はニュートリノニュートラリーノといった素粒子ではないかとされている。

 ダーク・エネルギーは、宇宙がいまも加速膨張していることからその存在を発見された。膨張を加速させるエネルギーの正体として、真空のエネルギーがうたがわれている。また、このエネルギーの発見によって、アインシュタインの宇宙定数(宇宙がつぶれるのを防ぐ斥力)が実は正しかったことがわかった。

 インフレーション宇宙論から、マルチバースという概念が生まれる。インフレーションは一様におこるのではなく、局所的におこる。この過程で、泡のように子宇宙、孫宇宙が発生する。宇宙同士はワームホールでつながっているが行き来することはできない。

 超ひも理論、膜宇宙論においてもマルチバースの概念が存在する。また、量子論においては「多世界解釈」という立場からマルチバースが支持されている。

 量子論では、ものの存在は確率的にしか予言できないが、多世界解釈によれば、なにかものごとがおこるたびに世界は分裂している。よって宇宙は無限に存在する。

 マルチバースによれば宇宙はいくつも存在するので、そのなかに偶然地球生命に都合のいい法則をもった宇宙もあるはずである。それがこの宇宙である、というのが、弱い人間原理の考え方である。

 なぞを解明しようという著者の姿勢が印象に残った。自分も見習いたいとおもった。

 ――科学においては、どれだけ理論的、観測的な発見があっても、それでもう探求すべきことがなくなるということは決してありません。私たちが知っている「知」の領域を球にたとえれば、知っている領域が増えていけば「知」の球はどんどん大きくなっていきます。しかし同時に、知っている領域である球と、知らない領域である球の外の境界、すなわち球の表面積も、どんどん大きくなっていきます。フロンティアというものは、いくらでも広がっていくものです。大切なのは、何か新たなことを知れば、逆に、自分は知らないのだということを発見することです。それによって、また科学は進んでいくのです。