うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『法律を読む技術・学ぶ技術』吉田利宏

 人に借りた本。

 衆議院法制局出身の人が、法律の概要、リーガルマインドの養い方、条文の読み方等を説明する本。法律の目的を理解し、法律の考え方を身につけることが、理解につながり、また法律を扱うためのたすけにもなることがわかった。

 

 法律とは国会を通じて成立したものをいい、憲法、法律、政令、府令・省令という序列をもつ。法律の分類には以下のものがある。「権利義務の発生や消滅などの法律関係の中身を定める」実体法と、「その内容を具体的に実現する手続き」を示す手続法という分類がひとつである。次に公法と私法という分類がある。最後に一般法と特別法がある。たとえば商法は民法の中の特別法であり、商法のほうが優先される。労働基準法民法の特別法である。

 

 判決には、法廷意見と少数意見がある。法廷意見は裁判官の中で多数を占めた意見である。少数意見の中には、法廷意見の結論に賛成するが理由づけの異なる「意見」、法廷意見に反対する「反対意見」、法廷意見に対し補足する「補足意見」とがある。

 法律を理解するには法律の目的を1条から知ることが重要である。また似たような規定がある場合は比較して、なにが違うのかをはっきりさせる必要がある。たとえば民法における養子の規定の細かい分類にも、民法の目的に沿った理由づけがなされている。

 民法は総則・物権・債権・親族・相続の5編からなり、大きくわけて財産法と家族法に分けることができる。民法の基本原則は権利能力平等の原則、所有権絶対の原則、私的自治の原則の3つである。民法には任意規定強行規定があり、強行規定は強制力を持つが、任意規定の場合、たとえば契約の際に当事者がなにも定めていない場合は任意規定のとおりになるが、規定のとおりでなくとも違反とならない。

 

 物権は物にたいする支配権をさし、所有権、占有権、用益物権、担保物件からなる。債権は人にたいする権利をさす。典型契約とは、契約において問題となりそうな13の契約をいう。

 憲法は条文が少なく抽象的であるため、判例を活用し憲法の言わんとしていることを解釈していかなければならない。憲法の内容は大きく戦争放棄、人権、統治に分類される。憲法は自由の基礎法であり、国民の自由を保護するためにある、と著者は言う。憲法を理解するには条文、判例、学説を学ばなければならない。

 人権には自由権社会権、受益権、参政権がある。これらの根本となるのが「法の下の平等」と「幸福追求権」である。自由権は「国からの自由」を、社会権は「国による自由」をさし、受益権は請願権や国家賠償請求権、裁判を受ける権利、刑事補償請求権をさす。時代の変化によって、プライバシー権や環境権等、新しい人権も生まれてきている。

 公共の福祉とは自由を制限するものだが、その正体は一元的内在制約説によって説明するのが主流である。その内容は「どんな権利でも、それぞれの権利の性格に応じて内なる限界やほかの権利とのぶつかり合いの調整は必要である、その調整を公共の福祉と呼ぶ」というものである。

 公共の福祉は具体的に「比較衡量論」と、「二重の基準の理論」によって適用される。お互いの権利が衝突したとき、人権を制限することによって失われる利益を比較して調整すべきという考えが「比較衡量論」である。また、経済的自由と精神的自由であれば、精神的自由の方を優先して保護する、というものが「二重の基準の理論」である。

 とくに精神的自由は民主主義の根本をなすものであり、表現の自由を奪う検閲は憲法によって禁じられている。検閲にも要件があり、判例が考察の対象となっている。

 行政法は行政組織法、行政救済法、行政作用法に分かれる。行政救済法は「行政によって侵害された権利や利益を救うための法律」である。行政作用法は「行政と国民との関係に関する法律」である。行政法学とはこれら行政法の共通事項を研究する部門である。学習の中心は行政救済法となる。

 

 ほか、法律を学ぶ際に知っておくべき基礎知識を羅列する……欠缺(けんけつ)、主物(しゅぶつ)、物上代位(ぶつじょうだいい)、元物(げんぶつ)、元本(がんぽん)、兄弟姉妹(けいていしまい)、羈束行為(きそくこうい)、付款(ふかん)、加重(かちょう)、牽連犯(けんれんはん)、図画(とが)、毀棄(きき)。

 A若しくはB又はC=(A or B) Or C

 A及びB並びにC=(A and B) and C

 「適用」とは本来の対象に法律をあてはめること、「準用」とは似ている対象に規定をあてはめることをいう。「みなす」とは法律上そのように扱うこと、「推定する」とは反対の事実がなければそのようにしておくことをいう。

 「ある事情を知らないことを善意といい、知っていることを悪意という」。対抗するとは「主張を通すことができる」ことをいう。「時間がもつ法律的な効果のことを時効」という。当事者以外の者を「第三者」という。「お互いを裏切らない形で行動しなさいという原則」を「信義誠実の原則」という。

 「要件」とは備えておかなければならない条件をいう。「欠缺」とは欠けていることをいう。「不正」は違法であり、「不当」は適当でないという意味でも使われる。「無効」は法律上の効果が生じていない状態、「取り消し」は取り消されるまで有効な行為だが、さかのぼって行為の効力が失われることをいう。「条件」は不確実な将来のことがら、「期限」は確実な将来のことがらをいう。「停止条件」とは効果が条件を満たすまで停止されていること、「解除条件」とは法律行為が失効する条件をいう。

 「却下」は不適当な訴訟として中身を検討されることなく退けられること、「棄却」とは内容を検討して理由がないとして退けられることをいう。

 

元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術[第2版]

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