うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

のっぺりしたもののうごき(2011)

 もう長いことつかっているので、洗濯のりが
 はがれおちた この布はやわらかく
 なった くしゃくしゃにしても、繊維の
 網がずれる音が聴こえない
 わたしたちは昆虫じみた姿勢で
 這いつくばって、円状になって耳を
 すます
 やはり布の音はしなかった
 からだの、全部の部位に油を垂らされた、できるだけ
 腐っていくのをせきとめる
 要員がブラシでひきのばした
 無色の、文様やかざりのない布をかぶった人間が、
 基礎の上で動かなくなった、不動の姿勢を
 保ったまま、信号試験の音をだした
 とまったり、でたりの、きれはしの波を
 発するたびに、口蓋がちぎれて落っこちそうだ
 という印象をうける
 人間の頭頂部、布のでっぱった一点に、ちょうど鏡の
 ように、もうひとりの人間の頭頂部の
 一点が固定されて、この人間は、
 層雲、輸送機の胴体、異常電波の種をまかれた
 空の表面に足の
 うら側をむけて、同じように固定された
 黒ずんで炭化した足のうらには足のうらが、頭頂部には
 頭頂部が重ね合わさった
 布のなかから、1日に数回だけ、聴こえるか聴こえないかの
 境目で、くぐもった自己申告、人間の空中線について、
 おもうところがあるという声が発生した、だれも
 いないので覚えているものがいない
 天気がくずれて、雨が降っているあいだも、高高度まで
 突き出した人間の延長を見ることができる
 日の沈む時間帯になると、断層を覆う森のむこうに
 はっきりと映った