うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『自由の牢獄』エンデ

 非現実的な話があつめられた短編集。どこにあるのかわからない不思議な場所や、奇蹟をさがしもとめてさいごに破滅するか死ぬ話がふくまれる。

 かれらは絵や聖書の力にとりつかれてしまう。ボルヘスに影響をうけたという話では、非現実的な空間が出現して観察者をとまどわせる。夢世界の旅人の話に、ゆっくりとうごいて、建物どうしがお互いに共食いする白い都市が出てくる。こうした風景の創造はとてもおもしろくて、感心した。

 地底の中に住むものたちの話は、カフカのもぐらの話をおもいだした。彼らは本能のような目に見えない声にあやつられており、語り手はそれを「指令」と呼んでいる。指令に逆らって光のほうへ出ようとするが、これまでの奴隷状態はかれらを危険からまもるもので、またみずからが望んだことなのだ、と反論される。群集は指令ベヒーモトの理屈に納得し、主役はおいつめられてきびしい光の下に押し出され、絶叫する。

 主役は自由を手に入れたのか、殺人光線をあびて灰になったのかはわからないが、わたしの印象にのこったのは付和雷同の名のないものたちである。かれらは顔も名前もない背景であり、自分で考えることができず、稲穂のようにすぐなびくが、黒いかたまりになって個人におそいかかる。

 中島敦「弟子」で子路(たしか)を惨殺したのも、このような不気味な群である。

 「自由の牢獄」は自由を前にして嘆く男の話、人間には必然性、つまり、こうしろ、こうするべき、という指令が必要だということに気づかされる。

 上のような本の材料にくわえて、どこか抽象的な舞台と人びと、薄暗い風景、灰色の風景、豊かな色の風景をうまく組み合わせることで、独特の図像をつくっている。エンデは非現実の本を書くのがうまいとおもった。

 

自由の牢獄 (岩波現代文庫)

自由の牢獄 (岩波現代文庫)